1959(昭和34)年5月、国内屈指のサーカスとして知られたシバタサーカスの公演が長岡市の小学校グラウンドで開幕。円形の巨大テントの中で、綱渡りや空中ブランコなどスリル満点の曲芸を披露し、喝采を浴びた。長岡での公演後、新潟県内を巡回公演した。

 何もなかった駐車場に、突然建った赤テント。それは魔法のように現れた。そう、サーカスがやってきたのだ。

 チケットを切ってもらうと、その先につながっているのは異世界の入り口だ。

 中に入って席に着くと、なんとも言えぬ懐かしさに気持ちが高揚してきた。もしかしたら、遠い昔にかけられた魔法が、再びよみがえったのかもしれない。

 光るミラーボール。鍛え抜かれたエンターテインメント。光の揺らぎと影に感動し、美しく、はかない時間に魅了された。

 そのとき詩人・中原中也の「サーカス」の詩を思った。彼の描いたサーカスには切なさが漂い、天井の空中ブランコが「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」と気だるそうに揺れていた。

 しかし、私が見ていたサーカスは、喜びと活気に満ちていた。場内のサーチライトが私の目の前を通り過ぎるとき、それはまるで「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」とサーカスにすむ妖精が、楽しげに舞っているようだった。

 観客の中には、さまざまな思いを抱えながら見に来た人もいるかもしれない。いや、この私とてそれなりの悩みはあるが、しかしそれでも、もろもろの切なさは、サーカスの魔法で癒やされる。

 テントから出ていくと、外は明るく初夏の日差しも心地よく、また少し、頑張れる気がした。...

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