
何もなかった駐車場に、突然建った赤テント。それは魔法のように現れた。そう、サーカスがやってきたのだ。
チケットを切ってもらうと、その先につながっているのは異世界の入り口だ。
中に入って席に着くと、なんとも言えぬ懐かしさに気持ちが高揚してきた。もしかしたら、遠い昔にかけられた魔法が、再びよみがえったのかもしれない。
光るミラーボール。鍛え抜かれたエンターテインメント。光の揺らぎと影に感動し、美しく、はかない時間に魅了された。
そのとき詩人・中原中也の「サーカス」の詩を思った。彼の描いたサーカスには切なさが漂い、天井の空中ブランコが「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」と気だるそうに揺れていた。
しかし、私が見ていたサーカスは、喜びと活気に満ちていた。場内のサーチライトが私の目の前を通り過ぎるとき、それはまるで「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」とサーカスにすむ妖精が、楽しげに舞っているようだった。
観客の中には、さまざまな思いを抱えながら見に来た人もいるかもしれない。いや、この私とてそれなりの悩みはあるが、しかしそれでも、もろもろの切なさは、サーカスの魔法で癒やされる。
テントから出ていくと、外は明るく初夏の日差しも心地よく、また少し、頑張れる気がした。...
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