関係改善の動きを軌道に乗せられるか、これからが正念場だ。「健全な隣国」となるためには、真の融和に向けた両首脳の一層の努力が求められる。
岸田文雄首相が韓国を訪れ、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領と会談し、未来志向の関係構築を再確認した。
日本の首相が2国間会談のため訪韓したのは2011年以来だ。3月の尹氏訪日に応えるもので、首脳同士の相互訪問「シャトル外交」が本格的に再開した。
注目された元徴用工問題を含む歴史認識に関し、岸田氏は歴代内閣の立場を引き継いでいると表明した。その上で「多数の方々が苦しい思いをしたことに心が痛む」と言及した。
3月の首脳会談では出ていないフレーズで歩み寄る姿勢を示したが、今回も直接の謝罪は避けた。
元徴用工の訴訟問題を巡り、尹氏が3月に示した日本企業の賠償支払いを韓国の財団が肩代わりする解決策には、韓国で「屈辱外交」との批判の声が高まり、政権の支持率低迷を招いた。
「心が痛む」とした岸田氏の発言には、支持率低迷に悩む尹氏を支える狙いがあったのだろう。
ただ、韓国世論には「これでは不十分」との見方があり、韓国側が求める「呼応措置」と受け止めてもらえない可能性がある。
元徴用工訴訟問題で勝訴が確定した元徴用工ら15人のうち10人の遺族が賠償金相当額を受領した。反対してきた生存者3人のうち1人が方針を変え、受け取る意向を示している。
反対が根強い韓国世論の理解を広げるには、両首脳が誠実な働きかけを続けることが欠かせない。
東京電力福島第1原発の処理水海洋放出計画に関し、韓国の専門家らによる現地視察団受け入れも申し合わせた。
韓国では放出への懸念が強く、尹氏は、受け入れを韓国国民の健康と安全に対する懸念払拭への努力として一定の評価をした。
韓国側の信頼を得られるよう日本政府は真摯(しんし)に対応すべきだ。
岸田氏が訪韓を急いだ背景には、尹政権の側面支援に加え、日本側の都合もあった。
日本は尹氏を19日開幕の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に招待している。尹氏が連続来日した場合、次の岸田氏訪韓時に韓国側の日本への期待が高まり過ぎるため、避けたとみられる。
核ミサイル開発を進める北朝鮮を念頭に、広島サミットで予定する日米韓首脳会談を控え、良好な関係を強調する意味もあろう。
歴史認識に深く関わり、韓国が反発する「佐渡島(さど)の金山」の世界遺産登録を前に進めるためにも、日韓の関係改善は不可欠だ。
シャトル外交の本格再開を機に、両首脳は対話を重ねるとともに、双方の国民へ丁寧に説明していかなくてはならない。
