謝罪の動画と文書を発表して幕引きを図ることは認められない。事務所は問題と向き合い、実態を解明することが求められる。

 ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川前社長(2019年死去)から性加害があったとする元所属タレントの男性による告発を巡り、藤島ジュリー景子社長が謝罪する動画と文書を発表した。

 動画は事務所の公式サイトで公開、メディアなどからの質問に答える形で見解を文書で表明した。

 当事者に謝罪するとともに「ファンや関係者に大きな失望と不安を与えた」とおわびした。

 だが、性加害については前社長死去を理由に「確認できない」として事実認定を避けた。

 第三者委員会の設置も「ヒアリングを望まない方々も対象になる可能性が大きい」と否定した。

 収束させようとする意図を疑う。当事者を誹謗(ひぼう)中傷などの二次被害から守るのは当然だが、個別の被害は明らかにできなくとも、事実関係を曖昧にしたまま終わらせないでもらいたい。

 性加害問題を巡っては、週刊文春の記事を名誉毀損(きそん)だとして事務所が起こした訴訟で、04年に敗訴が確定している。

 訴訟について、藤島社長は「弁護士に確認するまで詳細を把握できていなかった」と釈明した。一連の性加害問題についても「知らなかった」とした。

 週刊誌報道や訴訟があったにもかかわらず、気付かなかったという釈明には疑問が残る。無関心だとしたら経営体質や社内意識を抜本的に改革していくべきだ。

 告発した男性は4月、記者会見で同様の被害に関して「はっきり分かるのは僕以外に3人。正直(前社長宅を訪れた)ほぼ全員だと思っている」と発言した。

 多数の被害者が存在する可能性がある。日本の代表的な芸能事務所トップとしての力を利用し、芸能界入りを目指す若者に性被害を強いたとしたら許せない。

 この問題はジャニーズファンが多い10代の間に知れ渡った。事務所が真相解明を避けることで、性被害を訴えても無駄だという気持ちを植え付けないか心配だ。

 16日に開かれた立憲民主党のヒアリングで、告発男性は「未成年で、立場の上の人から何かを要求された時、拒むのが難しい」と述べ、法整備を求めた。政治はこれに応えなくてはならない。

 今回の謝罪があるまで、所属タレントの出演番組を抱えている在京キー局の報道は、一部を除いて消極的だった。

 再発防止を求めるファン有志団体の女性は「性加害問題についての報道姿勢が十分だったかを振り返り、性暴力を許さない社会のために報道してほしい」と訴える。

 メディア側も反省しなくてはならない。見て見ぬふりは加害の黙認と同じだと肝に銘じたい。