テロ対策上の重大な不備が相次いだ東京電力柏崎刈羽原発に対して、原子力規制委員会は事実上運転を禁止する是正措置命令を解除しないことを決めた。
規制委は追加検査で27項目の課題を指摘していたが、改善が不十分な四つの課題が確認され、検査の継続が必要と判断した。
解除の判断は当初春ごろともされていた。検査の終わりは見えず、東電が目指す6、7号機の早期再稼働は一層難しくなった。
重大な不備に対する改善が不十分だと判断されたことで、原発を運転する適格性に付いた疑問符が依然として残る。
規制当局が運転禁止を継続すると決めたことを、東電は重く受け止めなくてはならない。
発電燃料となる核物質は、テロリストに盗まれると悪用の恐れがあるため、原発構内は厳重な監視と身元確認が欠かせない。
にもかかわらず、柏崎刈羽原発では2021年に他人のIDカードの不正利用や、侵入者を検知する装置の長期間故障が発覚した。
命令から2年たっても改善が不十分であるという指摘には、是正に取り組む東電の本気度を疑わざるを得ない。
改善が不十分とされた課題は、侵入検知設備の誤警報への対策や協力会社を含めた情報共有、改善措置を一過性のものにしないための仕組みの構築などだ。
検査の見通しについて、規制委の山中伸介委員長は「東電自身の取り組み次第だ」と強調した。
「急激に変化があると期待していない」と当面は命令解除が難しいとの認識を示した。
厳しい見方といえる。東電を自律的な改善が見込めると判断することが解除の条件となるが、その状態には遠い印象がある。
検査の長期化は経営にも大きく影響することが予測される。
東電は今年10月に7号機、25年4月に6号機を再稼働することを前提にして、電気料金の値上げを申請していたからだ。
東電によると、7号機が1年間稼働した場合に見込まれる収支改善効果は1500億円に上る。
小早川智明社長は4月の決算発表で「経営の責任上、できるだけ早い再稼働を目指す」と述べた。
値上げと再稼働を結びつけようとする動きを警戒したい。経済情勢や経営効率より安心安全を優先して考えるべきだ。
岸田政権が掲げる「原発の最大限活用」は、政府や事業者が100%の安全性を確保し、住民の不安を払拭できなければ進めるわけにはいかない。
検査の継続を受け、花角英世知事は「安全性を確認する唯一の機関として役目を果たしてもらいたい」と規制委に求めた。
規制委は立地地域で暮らす住民の目線で、しっかりと東電の取り組みを確認してもらいたい。