公私混同の不祥事だ。更迭は当然で、むしろ遅すぎる。首相の任命責任も改めて問われる。

 岸田文雄首相は、長男で政務担当の首相秘書官、翔太郎氏を更迭する意向を示した。翔太郎氏は6月1日付で辞職する。

 昨年末に翔太郎氏が、首相公邸内に親族らを招いて忘年会を開き、不適切な行動をしたと週刊文春が報じた。赤じゅうたんの階段で記念撮影をした。演説台でポーズを取る人もいた。

 昨夏の内閣改造時に新閣僚の撮影が行われたほか、首相が記者会見で使う公的なスペースだ。私的な利用にはふさわしくない。

 首相は30日、翔太郎氏の更迭に関し「昨年の行動が不適切であり、けじめをつけさせるために交代させる」と説明した。

 首相は当初、国会での野党の追及にも厳重に注意したとするだけで更迭については否定していた。

 身内に甘いと指摘されるのも仕方がない。

 翔太郎氏を巡っては、今年1月に首相の欧米歴訪に同行した際も土産購入などに公用車を利用していたと週刊誌に報じられている。この時も首相は「公務だと思う」と擁護していた。

 相次ぐ不祥事をみると、秘書官としての資質に疑問がある。

 政務担当の首相秘書官は各方面の調整など複雑な役割があり、経験豊富な人物が就くことが多い。

 政治経験のほとんどない翔太郎氏の起用には、力量を疑問視する向きは就任時からあった。

 首相は昨年10月の起用時に「適材適所の観点から総合的に判断した」と述べていた。

 首相秘書官は公職であり、しっかりと職責を果たせる人物であるべきだ。翔太郎氏を起用した首相は、自らの責任を重く受け止めなければならない。

 翔太郎氏は辞職に伴う退職手当や期末・勤勉手当を受け取らない意向だ。世論を踏まえたとみられるが、当たり前の対応だろう。

 首相が一転して翔太郎氏の更迭に踏み切った背景には、報道各社の世論調査がある。

 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は、ウクライナのゼレンスキー大統領出席などで注目され、政権内には支持率上昇の期待感があった。

 公邸での不祥事が報道される前に実施した毎日新聞と読売新聞の調査では支持率がアップした。だが報道後に行った共同通信の調査は0・4ポイントの微増にとどまり、日経新聞、産経新聞では下落した。

 岸田政権では、問題発言などで閣僚や首相秘書官の更迭が続いたが、首相の決断は、世論に突き上げられての後手対応が目立つ。

 首相は、要職に就くのがふさわしい人物かを慎重に見極めた人事を行う必要がある。改めて、国民の信頼を得られるような政権運営を求めたい。