闘志や負けん気はよく炎に例えられる。スポ根漫画で目に火を宿す描写は使い古されたのかもしれないが、今でも「燃える」といえば感情や情熱が高ぶることも指す。一見、泰然としたこの人の内にも燃えさかるものがあるのだろう。将棋の七冠を史上最年少で獲得した藤井聡太さんだ
▼テレビで幼いころの映像が流れることがある。大会の決勝戦で敗れ、多くの観客の前で泣き崩れた。終盤で悪手を指した自分が許せなかったらしい。周囲の慰めにも耳を貸さずに号泣した。止めどない涙は、勝ちを欲する炎の強さゆえだろう
▼プロ入りし、無類の強さを発揮するようになったのは、己の炎を内に秘められるようになったからか。涼やかな表情の内側に炎を封じ込め、それでいて勝負どころではめらめらと燃やす。いったんペースを握ると、そのまま押し切ることが多い
▼七冠を達成した名人戦では、対戦相手の渡辺明さんを応援していた人も少なからずいたはずだ。両親が上越市出身の39歳。競馬が趣味で新潟競馬場を訪れることもあるという。筆者も勝手に親近感を抱いていた。一時は「現役最強」と言われたが、20歳の炎にのみ込まれた
▼ここまで来ると、藤井さんがどこまで突き抜けていくのかが楽しみで仕方ない。小学4年の時には将来の夢を「名人をこす」と記した。念願のタイトルをもぎ取り、名人の座を超えたその先が見えてきた
▼八冠独占に向けて、どんな炎を燃やしていくのだろう。渡辺さんが復活に燃える姿も見たい。