日ごろから武器を扱う組織として隊員教育は適切だったか。人間関係や意思疎通に問題はなかったか。事件の原因究明を急ぎ、再発を防がねばならない。

 岐阜市の陸上自衛隊射撃場で、訓練中の自衛官候補生で18歳の男が男性隊員3人に向けて自動小銃を発射、52歳と25歳の2人が死亡し、別の25歳が左脚を負傷した。

 教官の52歳隊員に発砲しようとした男を、近くにいた25歳隊員の2人が制止しようとして撃たれたとみられる。

 岐阜県警は殺人未遂容疑で男を現行犯逮捕し、その後、容疑を殺人に切り替えて送検した。県警と陸自警務隊が合同で事件直前のやりとりなどを調べている。

 捜査関係者によると、男は教官に𠮟られたとの趣旨の供述をしている。死亡した25歳隊員への殺意は否認しており、教官が標的だった疑いがあるとみている。

 約120人が参加した訓練中に発砲して隊員を殺害する異常な事態だ。速やかに事件の背景や動機を解明してもらいたい。

 関係者によると、男は小銃を撃つ位置の射座に着く前の待機中、3人を銃撃した疑いがある。

 通常は射撃場内で受け取った弾を弾倉に込め、射座に移動後、号令に従って小銃に装塡(そうてん)する手順になっているという。

 今回いつ弾倉を装塡し、安全管理は適切だったのか、改めて訓練手順を調べる必要がある。

 一方、識者の中には「徹底した安全管理下でも本人に強固な意志があれば、防ぐことは非常に困難だ」との見方がある。

 発砲した男の行動パターンやメンタル面を含む体調の変化なども確認しておきたい。周囲が気付いていれば、訓練を休ませるといった対策を講じることができたかもしれないからだ。

 男を含めた4人は同じ駐屯地の所属で、男は4月に入隊したばかりの新人だった。射撃を含む基礎的な訓練を受け、今月末に部隊に配属される予定だった。

 武器を扱う自衛官としての適性の有無が問われよう。

 慢性的な隊員不足が続く中、採用基準を下げて門戸を広げていないか点検してもらいたい。

 自衛隊では不祥事や重大事故が相次いでいる。

 昨年は女性隊員への性暴力が問題化し、全自衛隊への特別防衛監察に発展した。4月には沖縄県宮古島付近で陸自ヘリが墜落、計10人が亡くなる事故が起きた。

 自衛隊には日本の領土と国民の生命、財産を守る重要な使命がある。その任務を果たすには、まず自らの組織の規律を正し、安全性を確立することが求められる。

 防衛の一線にいるのは生身の自衛官だと忘れてはならない。政府は高額な防衛装備品に目を向けるだけでなく、隊員の勤務環境改善といった課題も考慮するべきだ。