新潟日報に掲載された記事の中から、ウェブサイトユーザーにもぜひ読んでほしい紙面(記事)をピックアップします。
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新潟県警など全国の多くの警察が犯罪捜査の写真記録用に、改ざんの余地がある東芝メモリ社製のSDカード「ライトワンスメモリカード東芝が2011年に発売した改ざん防止機能付きのSDカード。現在は東芝メモリ社が製造している。同社ホームページでは「動作確認済みのデジタルカメラで撮影した原画像ファイルに対して編集・加工または消去ができない記録媒体」と説明し、改ざんはできないとしている。同じカードを複数のカメラで使用することを禁じるなど、いくつかの注意事項が設定されている。」を使用していることが分かった。この問題に対し、裁判員裁判をはじめ公判で提出される証拠画像の信頼性を揺るがしかねないと懸念する声が上がっている。警察庁は原本の画像さえ確保できていれば問題ないとするが、新潟日報社などの検証では、加工した画像を別のカードにコピーして、原本を装えるカードを作成できた。弁護士の指摘や警察庁の見解を基に問題点を検証した。
【2018/10/05】
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犯罪捜査の証拠写真記録SDカード、新潟県警など全国の警察が改ざん可能な「ライトワンスメモリカード」を使用 冤罪の恐れ指摘も、警察庁「運用に問題ない」
- 警察が捜査写真記録で使うSDカード、“証拠”画像の加工は可能・新潟日報社が検証 改変できない製品、高価で導入進まず?
ライトワンスカードは、原本の画像をパソコンやデジタルカメラの内蔵メモリーにコピーして編集、加工できる。例えば色調整をして遺体の印象を大きく変えることができるほか、写っていたはずの人物を画面から外すようなこともでき、作成した画像は別のカードに保存が可能だ。
カードは原本の画像が入ったものと、加工後の画像が入ったものの2種類ができる。弁護士らが、どちらが原本か確認するのは困難だ。
警察庁は厳重な管理体制の確立や運用を都道府県警に通達。「加工しても(画像データの情報変更など)痕跡が残る可能性が高い」とも説明し、不正は起こらないとの立場だ。
だが、証拠の管理などに詳しい弁護士は「痕跡が残るとしても(印画した写真ではなく)画像のデータ自体が開示されなければ、弁護士が気づくことはない」と指摘する。
警察が撮影した写真は立証上欠かせないものとして捜査書類に使用されることがある。状況によっては公判の証拠となり、裁判員裁判で裁判員が目にすることもあり得る。証拠写真に改ざんの可能性があれば判決にも影響を与えかねない。
業界に詳しい複数の関係者によれば、ライトワンスカードの問題点を認識している警察関係者もいたという。ある警察関係者は「前からある話」と漏らし、警察内部でも以前から問題になっていた可能性をうかがわせた。
警察庁の担当者は「かつてのフィルムでも、例えば一部は写らないようにするとか、どけてしまうなどして撮ればいい。悪意を持ったら何でもできる。だからなるべく防止するようにしている」と話す。ただ「問題意識は持っている。このままでずっといっていいのかとは思っている」ともした。
日本弁護士連合会刑事弁護センター前委員長の奥村回弁護士は「映像や電子データなどの資料は重要度を増しており、捜査や公判で重要な証拠となる。事案によっては公判などで問題になる」とし、改善を促した。
◆各地の警察によってカードの性能にばらつきも
改ざんの余地がある東芝メモリ社製のSDカード(ライトワンスカード)の使用実績がある各地の警察は取材に対し、「警察庁の通達に基づいて使用している」とする。新潟県警も「使用する上で、特に問題は起きていない」と厳格運用を強調している。
新潟県警は、東芝メモリ社製のSDカードを2016、17年度に計4640枚購入し、事件や事故の捜査などに使用している。
改ざん防止機能付きのSDカード警察や官公庁、工事関係など一部の法人向けに製造、販売される特別仕様のデジタルカメラと記録媒体(SDカード)。カードは設計上、画像データの編集や上書き、削除ができないとされる。フィルムと同様、撮影した順に画像が残る仕組みで「書ききり型」と呼ばれる。撮影はカードに対応した仕様のカメラに限られる。カメラは一眼レフやコンパクトタイプがある。複数のメーカーが、市販品をベースにするなどして製造する。カメラ、カードともに量販店での取り扱いはない。は現在、東芝メモリ社とPGS社が製造している。新潟県警鑑識課によると、15年度までは、この2社とは別のサンディスク社の製品を調達していた。サンディスク社の製品は、パソコンやカメラの内蔵メモリーを使って書き換えた画像をカードにコピーすることができない構造だった。ただ、サンディスク社が製造をやめて以降は、ほぼ同性能のPGS社製品が認められるまで、使用できるカードが東芝メモリ社製だけだった時期があり、県警のカードは東芝メモリ社製に切り替わった。
新潟県警鑑識課は「警察庁の通達に適合した製品を適正な手続きに従って調達し、使っている」と強調。使用や管理についても「通達に従っている」とし、使用上の問題は発生していないと説明した。
東芝メモリ社製の使用実績がある大阪府警は2018年、改ざん防止機能付きのSDカードの納入を入札にかけたが、「入札予定枚数が変更になった」として、いったん中止した。SDカード20万枚を一括で納入する予定だったが、年4回に分けて入札する方式に切り替えた。結局、18年の最初の入札では3・5万枚を発注し、在庫があったサンディスク社製品を比較的安い価格で調達した。
大阪府警鑑識課は「入札の際に製品名を指定することはない。警察庁が通達する仕様に適合する製品で、安い価格を提示した業者から調達する」と説明する。
埼玉県警はPGS社のカードを使用しており、東芝メモリ社製品は使っていなかった。埼玉県警鑑識課は理由について「所有するコンパクトタイプのカメラの中に、東芝メモリ社製品が使えない機種がある。そのためPGS社のカードを調達している」と説明した。
兵庫、広島、山口、岡山、島根、鳥取の各県警では、東芝メモリ社製のSDカードを使用していることが判明。警察によって性能の違うカードを使用していたことが改めて浮き彫りになった。