捜査機関などで使用されている改ざん防止機能付きのSDカード。左が東芝メモリ社のライトワンスカード、右がPGS社製のカード
捜査機関などで使用されている改ざん防止機能付きのSDカード。左が東芝メモリ社のライトワンスカード、右がPGS社製のカード

 新潟日報に掲載された記事の中から、ウェブサイトユーザーにもぜひ読んでほしい紙面(記事)をピックアップします。

×    ×

 警察が犯罪捜査などで撮影した画像を記録するSDカードについて、新潟県警など全国の多くの警察が、使用方法によっては改ざんが可能な一部メーカーのカードを捜査に使っていることが10月3日、新潟日報社の取材で分かった。警察庁は使用に問題はないとの考えを示しているが、使い方次第では公判で証拠になり得る画像に手を加えられる余地があり、刑事事件に詳しい弁護士は「冤罪(えんざい)を生み出しかねない」と批判している。

【2018/10/04】

 このカードは、東芝メモリ社の「ライトワンスメモリカード東芝が2011年に発売した改ざん防止機能付きのSDカード。現在は東芝メモリ社が製造している。同社ホームページでは「動作確認済みのデジタルカメラで撮影した原画像ファイルに対して編集・加工または消去ができない記録媒体」と説明し、改ざんはできないとしている。同じカードを複数のカメラで使用することを禁じるなど、いくつかの注意事項が設定されている。」で、東芝メモリ社は改ざん防止機能付きとしている。しかし、業界関係者などによると、カード内の画像をパソコンの加工ソフトを使って編集し、別のライトワンスカードにコピーすることで、書き換えた画像を原本のように装うことができる。デジタルカメラの内蔵メモリーを介しても同様のことができるという。

 警察庁によると、ライトワンスカードは全国の多くの警察が使っている。新潟県警は2016、17年度に一般競争入札で計4640枚を調達した。

 警察庁は公判などで改ざんが疑われることのないよう、13年に「デジタルカメラで撮影した写真の活用について」と題した文書を都道府県警などに通達した。犯罪捜査の際にデジタルカメラで撮影した画像を記録、保管する媒体(SDカード)について「構造上、記録した原画像ファイル(データ)の編集、加工および消去が不可能なものを使用すること」などと記し、原本確保を求めている。

 活用要領をまとめた別の文書も通達しており、カードの保管について厳重な管理体制を確立することや、デジタルカメラの内蔵メモリーの使用禁止などを指示している。

 警察庁は取材に対し、ライトワンスカードに書き換えの余地があることは認めたが、「大本の画像に手を加えることはできず、管理も厳重に行っている。通達に基づいて運用する限り問題はない」と説明した。

 東芝メモリ社は「特徴や取り扱い方を説明した上で販売している。一般には流通しておらず、競争上の理由からも取材は受けられない」とした。

 改ざん防止機能付きのSDカードはほかに、サンディスク社製(現在は製造中止)、PGS社製がある。両社のカードはパソコンや内蔵メモリーを使って書き換えた画像をコピーすることはできず、原本を装うようなカードは作れない構造になっている。業界関係者によると、PGS社のカードはライトワンスより高価とされ、一般競争入札でカードを調達している多くの警察にとって、ライトワンスカードの方が調達しやすいという。

 日本弁護士連合会刑事弁護センター前委員長の奥村回弁護士は「容疑者・被告特定のための映像や画像が改ざんできるということは冤罪につながる。(警察庁の)通達には限界がある」とライトワンスカードの使用を問題視し、改ざんできないカードを使うよう求めている。

◆[解説]有罪・無罪を決める重要証拠、「警察の良心頼み」の状況に懸念

 犯罪捜査の過程で収集したさまざまな資料は、公判での有罪、無罪を決める重要な証拠になり得る。全国の警察が写真記録用に使っているSDカードが使い方次第で改ざん可能な状況にあることは、捜査の在り方に疑念を抱かせることにもつながりかねない。使用するカードの選定には厳格さが求められる。

 デジタルカメラの画像は修整が容易なため、警察庁は犯罪捜査での使用に慎重だった。だが、改ざんできないカメラやSDカードの開発が進んだことなどから導入を決めた経緯がある。それだけに、改ざんの余地があるカード使用を認めていることは整合性を問われそうだ。

 警察庁はライトワンスカードについて(1)画像を編集、加工しても別の画像ができるだけで元の画像は上書きできない(2)加工すれば痕跡が残る可能性が高い(3)カードの管理は厳しくしている-ことなどから使用に問題はないとしている。だが実際には使い方次第で原本を装うカードを作ることができるため、刑事事件に詳しい弁護士は「警察の良心頼み」と指摘する。

 警察庁の担当者は、ライトワンスカードとPGS社製カードについて「確かに機能的に違うが、最低ラインが守られていれば構わない」としたが、高価とされるPGS社製について「もう少し安くしてくれれば」と漏らす。また一部の県警はPGSカードを使用しており、改ざん防止の有効性が各地によって異なる“二重基準”も生まれている。

 刑事事件に詳しい弁護士は刑罰に関する法定手続きの保障を定めた憲法31条を挙げ、「改ざんの可能性がないカードを使うためにかかるコストは憲法上、やむを得ないと考えられているのではないか」と疑問を呈している。

 国の公文書管理のずさんさが次々と明るみになった。人権問題に直結する捜査機関の資料の取り扱いは一層の慎重さが求められる。早急な改善が必要だ。

[関連記事]警察が捜査写真記録で使うSDカード、“証拠”画像の加工は可能・新潟日報社が検証 改変できない製品、高価で導入進まず?

[関連記事]写真の色調整、写った人物の削除…“原本”装うことも可能 警察が使うSDカードに改ざんの余地、揺らぎかねない証拠画像の信頼性