
職場や家で思わぬ出来事に遭遇するも、夜には快適な寝具でぐっすり眠る「会社勤めのお父さん」のコミカルなCMといえば、思い浮かぶ方も多いのではないか。家具・日用品販売「ニトリ」の「Nシリーズ」CMでそのお父さん役を演じているのは、新潟市出身の俳優・清水伸さん(51)。「年2回の新CMを楽しみにしてくれる人が全国にいる。うれしいですね」
清水さんは1972年、新潟市西区に生まれた。「目立ちたがりの子どもだったかも」と笑う。幼い頃、親戚の集まりで当時人気だった歌手・世良公則さんのものまねをして小遣いをもらった。学芸会の芝居にはメイン級の役で出演した。
とはいえ、早くから役者を志していたわけではなかった。中学校に通う頃には音楽に夢中になった。高校では学校の枠を超えてバンドを組み、市内のライブハウスや学校の文化祭で演奏した。当時流行していたロックバンドの曲をコピーしたステージは女子生徒の人気を集めた。
東京にある大学の夜間部に進んだ後も、人生の目標は曖昧だった。周囲の学生はほとんどが社会人。他の学生にも、勉強にもなじめなかった。東京で共同生活をしていた中学時代の音楽仲間は、メジャーデビューして輝いている。それに比べ、自分は、親の金も自分の時間も無駄にしているのではないか。そう思えた。
やりたいことが見つからないまま、取りあえず自動車免許を取得しようと、大学の冬休みに新潟の実家に帰省。そこに意外なきっかけが待っていた。
自動車学校の教習の空き時間に立ち寄った書店で、たまたま手にした雑誌の記事に「欽ちゃん劇団メンバー募集」とあった。あの有名なコメディアン・萩本欽一さんの劇団に入れたら、面白いかもしれない。そう思った清水さんは東京に戻って「欽ちゃん劇団」の入団オーディションを受け、見事に合格する。
だが、合格はしたものの「5万円を支払い、コントやダンスのレッスンを週6日、3カ月間受ける」のが前提条件だと知る。「今考えればとても良心的なレッスン料。でも当時は本当にお金がなかったんです」。結局、入団はしなかった。
それでも、初オーディションでの合格は「成功体験」として心に刻まれた。「役者でも自分は生きていける」。清水さんは俳優を仕事にしようと目標を定め、動き出す。...