時代劇を見ていると時々出てくる。人足が担いで「えっほえっほ」。人やモノを運んだ「かご」である。箱形の台の上に1本の棒を通し、2人一組で担ぐ。「相棒」という言葉はこの姿が語源らしい

▼なるほど、2人のバランスが悪いとうまく運べず、スピードも出ない。互いを信頼し、呼吸を合わせることが重要だったのだろう。そんなふうに振る舞ってくれる人は、現代でも大切な相棒になり得る

▼まさにそう呼ぶにふさわしく見えた。米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の通訳を務めたあの人だ。大谷選手の胸の内もくみ取って言葉を翻訳し、発語した際の空気感までも伝えているようだった。常に隣に寄り添い、公私とも支える様子が感じられた

▼そんな相棒が球団から解雇された。現地報道によると、違法賭博に関与した疑いが浮上している。借金をしていた賭け屋に対し大谷選手の口座から送金があったとする報道もあり、大谷選手側の弁護士は「翔平が大規模な窃盗の被害に遭った」との声明を出した

▼事実なら、あぜんとする。大谷選手が数々の偉業を成し遂げる上で欠かせない存在だったはずだ。相棒を失った大谷選手の心中はどんなものだろう。新天地に移籍し、シーズンが始まったばかりだというのに

▼1世紀ほど前に大リーグで八百長問題が持ち上がった。渦中のスター選手にファンの少年が「うそだと言ってよ、ジョー」と叫んだ言葉はよく知られる。今また多くのファンは言いたいはずだ。うそだと言ってよ。

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