本紙窓欄の投稿者を見習って実践していることがある。相手の目を見て「こんにちは」と言ってから、頭を下げる。眠れない夜は、NHKのラジオ深夜便に耳を傾ける
▼すぐにまねできないこともある。例えば、宮沢賢治の童話「おきなぐさ」を丸ごと暗記して語る「ストーリーテリング」だ。黒い花を咲かせるオキナグサ、アリ、ヒバリが人間の言葉をしゃべる。太陽、雲、風を巡る会話はとても静かで、とても深い
▼文庫本で7ページの長さだけれども、何度黙読しても覚えられない。音読しても、チラシの裏に書き写しても駄目だった。思い切って投稿者に電話をかけ教えを請うたら、実演してもらえることになった
▼投稿した女性は一言一句間違いなく、よどみなく、15分で話し終えた。ストーリーテリングを始めたのは25年ほど前。聞き手と目線を合わせながら話をできるのが長所だという
▼ところで暗記の方法は…。まず物語のコピーを肌身離さず持つ。次に段落を区切り、誰が、いつ、どこで、何をしたか、情景を頭に思い浮かべる。最後に本を見ないで紙に書いてみる。だいたい1カ月で覚えられたという
▼賢治の作品は今では多くの人たちに読まれているが、生前は童話集「注文の多い料理店」など2冊しか出ていない。今年は出版から100年に当たる。賢治が37年の生涯で残した童話は100編ほど。節目の年に一編でも多くの作品に触れようか。それとも一編を繰り返し読もうか。もちろん両方できるに越したことはない。