桜だけではない。さまざまな植物が花開く季節である。その色合いや、かれんな姿を目にすると目尻が下がる。開花に満開…。「開く」という言葉が心を躍らせるのだろうか。開幕、開運、開眼なども期待に満ちている
▼とはいえ、開かない方がいいものも。例えばブロッコリーだ。おいしくいただく部分は花蕾(からい)といい、文字の通り花のつぼみである。収穫が遅れて花蕾が開き、花が咲くと味が落ちてしまう
▼これから旬を迎えるアスパラガスも同様だ。穂先が開いてしまうと商品価値は下がってしまう。出荷時期は1日に何センチも成長するため、アスパラ農家は休日なしで畑へ足を運ぶ。成長しきらず、若々しい茎のうちに収穫することが肝心だ
▼こう書くと「早くて若いのがお勧め」と思われそうだが、農作物の世界は奥深い。花が咲いて実を結んだ後、熟してからこそが食べ頃のものも山ほどある
▼その代表格はソラマメだ。花が咲いた後に出る若いさやは、名前の通り空に向かって成長する。グングンとした勢いを感じるが、取るにはまだまだ早い。さやが重たげに膨らんでクタッと下を向く。さやの背筋が黒くなる。こうなって熟した時が収穫の目安だ
▼花が美しく開いた姿は理屈抜きに素晴らしい。つぼみの初々しさとみずみずしさも魅力的だ。とはいえ、勢いを失ってから得られる円熟味も捨てがたい。それぞれに違った特長があると植物に教えられる。新しい人間関係が生まれる春。一人一人の特長を大切にして関係を育みたい。