凱旋(がいせん)とは程遠い。打棒復活の保証もない。けれど、球団は背番号25を空けて待っていた。思わず泣いたファンもいた。プロ野球DeNAに筒香嘉智選手が5年ぶりに復帰し、2軍で調整を続けている
▼不本意な大リーグ挑戦だっただろう。日本球界屈指の強打者として海を渡ったが、4年間でメジャー出場は182試合にとどまった。通算打率は2割に届かず、本塁打は18本だった
▼足や腰の故障もあったが現実はシビアだった。戦力外の屈辱を何度も味わい、マイナーリーグや格下の独立リーグなど7球団を渡り歩いた。ちょうど、大谷翔平選手がまぶしすぎる輝きを放っている時期と重なる
▼挑戦がいつも成功するとは限らない。むしろ実を結ばない方が多い、と言ってしまえば言い過ぎか。だからこそ胸がすく活躍に興奮を覚えるのだが、サクセスストーリーだけに価値があるわけではない。野球少年の憧れは断然二刀流かもしれないが、筒香選手の打席でのたたずまいの方に引かれる野球好きもいる
▼プレーの一方、子どもたちの育成に一家言あり、勝利至上主義について度々問題提起した。理想とする野球を実践する場にしたいと、故郷和歌山に私費2億円で球場を造ってしまう人である
▼横浜スタジアムでの公開復帰会見には、平日の雨天にかかわらず9600人が駆けつけた。「野球がうまくなるため、アメリカで結果が出なかった原因と向き合い続けたい」。そう語り再起を期す元主砲に贈られた応援歌の合唱が、温かかった。