この時季の風はさわやかだが、妙なものを運んでくることもある。花の香りを楽しんでいたら、にわかに強い風が吹き抜けた。目と口の中に砂が入る。ざらりとした感触に思わず顔をしかめた

▼こんな身体感覚を意識に当てはめ「心がざらつく」と言い表すことがある。落ち着かなくなる「ざわめく」にとどまらず、不安や不快の色合いが強いように思う。砂の嫌な感触に、あるニュースに胸の内がざらついたことを思い出した

▼柏崎刈羽原発の再稼働問題である。能登半島地震で、重大事故の際の避難がいかに困難かが浮き彫りになる中で国は地元同意を要請してきた。避難の不安が一向に解消されていないのに、感情を逆なでされたと考える人も少なくないだろう

▼本紙が市町村長と県議を対象に実施したアンケートでは、地元同意要請のタイミングについて「早い」との回答が前者で60%、後者は86・5%に達した。住民の心情をくもうとしない国への怒りがにじんでいる

▼福島第1原発事故後、国は原発への依存度を下げる方針だった。だが現政権は最大限活用を掲げ、次世代型の建設や運転期間延長の検討を打ち出している。県議アンケートでは、現政権の政策について「評価できない」「あまり評価できない」との回答が計80・8%に上った

▼地方に住む人の苦しみや不安への想像力が、国には決定的に欠けている。国が起こした風が砂ぼこりのようなものを運んできた。ざらついた胸の内は、そう簡単に滑らかになりそうにない。

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