タレントのタモリさんは上京して早稲田大学に進学したが、除籍となり23歳で福岡に帰郷した。生命保険会社と観光関連会社で計7年勤務し、その間に結婚したという(片田直久「タモリ伝」)

▼「有名人になりたい」と野心を温めていたそうだが、もしそのままサラリーマン生活を全うしていたら、希代のエンターテイナーは生まれていなかった。異能の人だったからこそではあるが、道を引き返したり脇にそれたりしてたどり着ける天職もある

▼退職手続きを代行するサービスが大型連休明けに大忙しだという。上司らと顔を合わせずスピード決着できるとして、都市部などで急速に普及している。労働環境が粗悪なブラック職場を逃れる新卒者の利用も多いようだ

▼東京商工会議所による今年の新入社員の意識調査では、4人に1人は「機会があれば転職したい」と答え、定年まで働きたい人を上回ったとされる。新潟労働局の集計では、県内大卒者の就職3年以内の離職率はこの10年余り3割を超えている

▼見切りの早さは社会のデジタル化と無縁ではないように思えるが、既に終身雇用は当たり前ではなくなっている。労働力人口は縮小している。雇用の流動化はますます進む

▼これからの世代が働きがいを持って活躍できる社会でありたい。何度でもチャレンジできる包容力も備えておきたい。でも「石の上にも3年」の心持ちも大切にしたい。難儀をした先にしか見えない風景がある。若いうちにその景色を見てほしい気もする。

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