奥只見を愛した作家、開高健の「日本三文オペラ」の舞台は戦後の大阪だ。廃虚のようになった旧陸軍工廠(こうしょう)には兵器や重機、鉄材などが大量に残されていた

▼これを盗み出して金に換えようとする泥棒集団と、当局との攻防が鮮烈に描かれる。その筆致からは、むき出しの欲望と熱気がむんむんと伝わってくる。まるでノンフィクションのような生々しさだ

▼物語の頃から時は流れたが、金属を狙った盗みは今も多い。全国の警察が昨年認知した窃盗事件は前年比5908件増の1万6276件だった。統計のある2020年以降では最も多く、警察庁は対策チームを設置したことを明らかにした

▼先日の本紙が太陽光発電施設から切断されて盗まれた銅線の写真とともに伝えていた。本県で認知された事件も209件と前年から88件増えた。銅線や工事現場の敷き鉄板、金属製の側溝のふたなど、幅広い品が盗まれた

▼今年に入っても被害は続いている。上越市吉川区では、田んぼに水を流す農業用パイプラインの給水栓に設置してある鉄製のふたが相次いで盗まれた。2~3月に計520枚がなくなったという。地元の農業関係者は「ここまでごっそりと盗まれるとは」と怒りに声を震わせる

▼盗みが増える背景には、金属価格の高騰があるとみられる。銅は電気自動車などの用途で需要が拡大した。狙われるのは屋外にあるものが多い。防ぐのは簡単でなく、関係者は日夜頭を悩ませているようだ。犯罪者との攻防はこれからも続くのか。

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