大相撲は夏場所も本命不在の混戦模様だ。2022年以降の全14場所で優勝力士は10人を数えるなど、このところ下克上が続く。海洋高出身の大の里も初Vに期待が膨らむ
▼混戦には理由がある。横綱照ノ富士が今場所も途中休場した。在位17場所で休場は10度目だ。両膝と腰に“爆弾”を抱えながら脇腹も痛めた。満身創痍(そうい)の姿は痛々しい
▼巨漢同士のぶつかり合いだ。けがはつきものだが、今場所は三役以上で5人が休場する異常事態だ。途中休場した貴景勝と霧島の両大関は、首の不調が長引いている。無理を押して出場し、状態を悪化させる力士は少なくない
▼元横綱稀勢の里の例もある。横綱に昇進後の17年春場所は負傷しながら出続けた。2場所連続優勝を果たしたものの、その後8場所続けて休場するなど、輝きを取り戻せぬまま在位12場所で引退した
▼土俵の鬼と言われた二子山勝治さんは「厳しい稽古がけがをしない体をつくる。けがをするのは心に隙があるから」が持論だった。大相撲は神事としての側面があり「けがは土俵で治すもの」ともされてきた。とはいえ、主役は生身の力士である。故障にひるまず戦う姿は感動を呼ぶが、常態化するようではスポーツとしての魅力を損なう
▼現役はそう長く続けられない。厳しいプロの世界ではあるけれど、捲(けん)土(ど)重来を期してしっかり療養できる環境を整えられないものか。かつては休場しても番付を維持する公傷制度があった。角界にもSDGs(持続可能な開発目標)を。