昼の苗名滝。関川の本流にかかる滝で、休日には涼しさを求めて多くの観光客が訪れる

 妙高山の麓、新潟県妙高市杉野沢に名瀑(めいばく)がある。「日本の滝百選」の一つ、苗名滝(なえなたき)だ。豊富な雪解け水が流れ落ちる迫力と清涼感が魅力で、紅葉の景色も素晴らしい。究極の風景は、満月の光が滝に当たり、虹がかかるムーンボウ(月虹(げっこう))だろう。いくつかの条件がそろわないと現れず、見られたら幸せになれるという。2023年、パンフレットの写真で見て以来、カメラマンとして「絶対に撮りたい被写体」となった。重い機材を背負い、滝へ向かった。

(上越支社・大渕一洋)

暗闇で待つこと数時間…ついに“その時”は来た!

滝と満月が生み出す絶景「ムーンボウ」

 梅雨明け前の7月下旬。曇り空から時折晴れ間がのぞき、苗名滝から約550メートル手前にある駐車場は70台以上車が並んでいた。その半数以上が長野、静岡、横浜といった県外ナンバー。涼を求め、はるばるとやってきたのだろうか。

 駐車場近くのつり橋から立派な砂防ダムが見える。1995年7月の7・11水害の後、県が改修したものだ。それを横目に遊歩道を進むと木陰が続き、風が心地いい。歩き出して15分。苗名滝に着いた。

1995年の集中豪雨を機に苗名滝の下流に県が造った砂防ダム

 滝の手前のあずまやは涼む人でにぎわっていた。新潟県燕市の会社員男性(43)は「駐車場は暑かったが、滝に着いたときの涼しさと水量たっぷりの景色が素晴らしい」と絶賛した。

 この日の妙高市(関山)の最高気温は31・4度。苗名滝では25度ほどで、体感ではもっと涼しく感じられる。観光客らは「気持ちいい」と感動し、スマートフォンで滝を動画撮影する外国人観光客もいた。

苗名滝を訪れた多くの観光客。つり橋の上から写真を撮る姿もあった

 昼間のにぎわいから一転。夜の苗名滝は人の姿もなく、闇から響く滝の音が静寂感をさらにかきたてる。

 ムーンボウの撮影は7月の満月だった21日にはうまくいかず、22日に再挑戦した。一般社団法人妙高ツーリズムマネジメントは「夜、苗名滝に行くときは、ライトを持参して安全に注意を」と呼びかけており、それに従った。現場は文字通り真っ暗。クマの出没を警戒して、クマ鈴を鳴らしながらライトで足元を照らし、三脚を担いで撮影場所に向かった。

 ムーンボウは、...

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