
新潟県の地域医療の根幹を長年担ってきた県立病院とJA県厚生連病院の経営が危機的状況となっている。なぜここまで追い込まれたのか。再生の道はあるのか。歴史をひもときながら探る。(7回続きの6)
「ゆっくりでいいので、歩いてみましょう」
9月上旬、JA県厚生連けいなん総合病院(妙高市)のリハビリテーションセンター。理学療法士が付き添い、70代男性患者が歩行器を使ってリハビリに励んでいた。
けいなん総合は急性期病院の後方支援として、亜急性期から回復期、慢性期の機能を担う。病状が安定し始めた回復期にリハビリを行い、自宅や施設に戻ることを目指す高齢患者を多く受け入れる。
2023年度決算で、けいなん総合は本業のもうけを示す事業損益が約1000万円の黒字だった。11ある県厚生連病院のうち、プラスは2病院だけだった。
けいなん総合は17年度から黒字を続ける。それまで年2億〜3億円の赤字だったが、当時の院長らが構造改革を行い、急性期を上越市内の病院に任せ、回復・慢性期を担う病院に特化したことで黒字化が進んだ。

ただ、先行きは明るくない。2024年6月の診療報酬改定や物価高の影響で、24年度決算は厳しい結果が予測される。平野正明院長は「地元妙高市からの補助金で、ぎりぎり収支均衡を達成できそうだ」と声を落とす。経費を一から見直すなど、さらなる支出削減で赤字化を回避したい考えだ。
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全国で厚生連病院が一番多いのが13ある長野県だ。長野厚生連は23年度決算で4年連続の黒字となった。
人口減少やウイルス禍後の受診控えの傾向をはじめ、新潟県と環境は類似する。経営に差が出る要因は何か。全国厚生農業協同組合連合会(全厚連、東京)の前田俊範参事は「新潟県は県立と厚生連の総合病院が医療圏の中に一緒にある。長野はすみ分けができている」と指摘する。
長野の県立病院は五つあり、不採算部門である精神、子ども、へき地の医療をカバーする。地域の基幹的病院は主に公的病院の厚生連と日赤が担う。
長野県の県立病院は独立行政法人だ。10年に県直営から切り離した。県医療政策課は「民主党政権下の行革ブームもあり、柔軟な人事や組織運営を取り入れ、赤字体質だった県立病院のムダをなくそうとかじを切った」と説明する。
前田氏は「長野は早くから地域医療のグランドデザイン(全体構想)があったから、厚生連も持ちこたえたのだろう」と分析する。
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新潟県も持続可能な地域医療に向け、グランドデザインを描く。7医療圏ごとに機能再編の協議が進み、上越医療圏では、ともに急性期を担う県立中央(上越市)と県厚生連上越総合(上越市)の統合再編も視野に医療機関の見直しが検討されている。ただ両病院の統合は組織文化の違いが壁となり、難しいとの見方がある。

協議を進める上で鍵はあるのか。好例は17年に公益財団法人の病院と統合を遂げた県厚生連の小千谷総合病院(小千谷市)だ。経営母体が異なる民間病院の統合は「県内初」とされた。04年の中越地震の建物被害や医師不足の深刻化で統合に至った。
構想が持ち上がってから10年経ての統合に尽力した前市長の大塚昇一氏は、職員待遇や事業譲渡の対価を巡り折り合いがつかず、交渉は何度もだめになりそうだったと振り返る。それでも、住民の命を守るために総合病院をなくさないという関係者の思いは揺るがなかったという。
統合再編の成否は、県のリーダーシップにかかっている...