緊急情報などを伝えるだけでなく、時報も流す防災行政無線の屋外スピーカー=燕市佐渡

 夕方などに時間を伝えてくれる時報。屋外スピーカーから聞こえてくる音は、童謡やサイレンなど地域によってさまざまだ。新潟県燕市では、二つのオリジナル曲の電子音が使われている。そのうちの1曲「恋ツバメ。」は、地元アマチュアバンドの持ち歌で時報にしては珍しい。中学時代を燕市で過ごした記者は、この曲を聞いた瞬間、当時の記憶が鮮明によみがえってくる。いつも当たり前に流れる時報に耳を澄ます人は少ないかもしれない。それでも、地域に時刻を伝え続け、生活に溶け込んできた時報音楽について、掘り下げてみた。

 (三条総局・中村紗菜子)

独特の哀愁帯び、夕暮れにぴったり「恋ツバメ。」

合併直後の燕、丸ごと収めたご当地ソング

 毎週末の午後6時、燕市にはどこか懐かしさを感じるゆったりとしたメロディーが響く。ご当地ソング「恋ツバメ。」の一節だ。時報に採用されて以来、10年以上にわたって市民に時刻を伝え続けている。

 「恋ツバメ。」は、地元のアマチュアバンド「ウタヤ音楽堂」でリーダーを務めるゴールデン佐藤さん(56)=燕市=が、2008年に作った。

 旧吉田町、旧分水町と合併したばかりの燕市を丸ごと収めた一体感のある歌として、09年には合併3周年記念イベントの公式ソングに“抜てき”された。当時を知る関係者は「微妙な意識が漂っていた合併直後の燕の雰囲気をまとめ上げ、乗り越えた曲」と評価する。

 時報に採用されたのは11年7月。それ以前は童謡「ふるさと」が使われていた。東日本大震災の後、避難者から「故郷を思い出す」などの声が上がり、曲を変更した。編曲のしやすさなどもあって、「恋ツバメ。」が選ばれた。時報の選定にも携わった前述の関係者は「独特の哀愁を帯び、夕暮れの雰囲気にもぴったりだった」と語る。

曲や歌詞に込めた思いを語る「恋ツバメ。」を作ったゴールデン佐藤さん=燕市宮町

 佐藤さんは、より多くの人に歌を届けたいという思いを込め、「世代や好きな音楽のジャンルを問わず、懐かしさを感じて耳に留めてもらえるような旋律を目指した」という。

 ノスタルジックな雰囲気でありながらも暗くなりすぎないメロディーも特徴の一つ。故郷を恋しく思わせる響きの中に「燕の良さを未来につなぐ」という作曲者の前向きな思いが込められた曲風は、1日の終わりを告げ、新しい明日に向かう午後6時の時報にうってつけだ。

 当初は、毎日午後6時に前奏とサビを合わせた約50秒が流れていた。17年に燕市の子どもの歌「みんなつばめのこども」が平日に採用されて、「恋ツバメ。」は毎週土、日曜日の2回、サビのみに編曲し直した約30秒が流れている。

◆「恋ツバメ。」歌詞にちりばめられた燕の魅力

 「恋ツバメ。」の魅力は、夕焼けの空になじむメロディーだけではない。地域が紡いできた歴史や伝統をあふれんばかりに盛り込んだ歌詞には、...

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