トップが辞任を表明し、長時間の記者会見をしてもなお信頼回復には程遠い。企業の風土や体質を見直し、ゼロからスタートする覚悟でなければ再生は困難だ。

 元タレント中居正広さんと女性とのトラブルにフジテレビ社員の関与が報じられた問題で、フジ・メディア・ホールディングス(HD)は27日、記者会見を開き、フジテレビの港浩一社長と嘉納修治会長の引責辞任を発表した。

 この日の会見は、17日の社長会見で映像撮影や参加メディアを制限して批判されたことを受け、やり直す形で開催された。

 港氏は「放送業界の信用失墜にもつながりかねない事態を招いてしまった」と述べた。「私自身の人権への認識が不足していた。弊社の対応が(女性に)深い失望を抱かせた」とも語った。

 フジに対する批判は強く、企業のCM差し替えは系列局にも広がっている。経営トップ2人の辞任は当然のことだ。

 会見は10時間以上に及び、その模様はフジテレビで中継された。異例の会見となったが、これで真相が明らかになり、信頼回復への道筋がついたとは言えない。

 トラブルが起きたという2023年6月の会食への社員の関与について、フジ側は改めて否定した。一方、その前月に中居さんのマンションで開かれたバーベキューにはこの社員が声をかけ、女性も参加したことを明らかにした。

 関与を報じた週刊文春は28日、会食は社員ではなく「中居氏に誘われた」とする訂正を発表した。

 同時に女性がこの会食を「社員がセッティングしている会の“延長”と認識していた」とし、「社員がトラブルに関与した事実は変わらない」と主張した。

 真相はどうなのか。女性の人権を侵害するような「接待」はあるのか。第三者委員会は徹底的に調査してほしい。

 会見でフジ側は、中居さんに対して正式な調査を行わなかったことも明らかにした。トラブルが広く知られるリスクがあり、「女性のケアに悪影響があるのではないかと危惧した」という。

 深刻なトラブルを把握しながら中居さんの出演する番組を継続しただけでなく、正式な調査も行っていないとは信じられない。

 コンプライアンス(法令順守)担当がトラブルを知らされていなかったことも判明した。一連の対応から浮き彫りになるのは、フジの法令順守意識の低さとガバナンス(組織統治)の不全だ。

 フジサンケイグループの代表は、1988年の社長就任からフジを事実上率いる日枝久氏だ。

 会見で幹部の1人は「影響力は大きい。この企業風土の礎をつくっていることは間違いない」と述べた。実力者が長期間にわたって君臨するありようは、いびつと言わざるを得ない。