曖昧なイメージを打ち出すだけでは、何を実現したいのか首相の熱意が伝わらない。後ろ向きな答弁も目立った。政治への信頼を取り戻せるかも、心もとない。
石破茂首相の施政方針演説など政府4演説に対する代表質問が、衆参両院本会議で行われた。
石破首相は施政方針演説で、「楽しい日本」を目指すことを掲げた。全ての人が安心と安全を感じ、自分の夢に挑戦し、今日より明日はよくなると実感できる活力ある国家だという。
それを実現するための地方創生を「令和の日本列島改造」として強力に進めると、述べた。「地域の潜在力を最大限に引き出し、ソフトの魅力が新たな人の流れを生み出す」と強調した。
地方創生は首相の看板政策だけに、力を入れたいのは分かる。だが、肝心なのは人口流出が続く地方を活性化するための具体策だ。
代表質問で野党から「地方は人口減少の影響で明らかに衰退している。楽しい日本と言われても気持ちがついてこない」と、批判が出たのもうなずける。
2025年度予算案を巡り注目される「年収の壁」引き上げや、高校授業料無償化などで、与野党の駆け引きは熱を帯びつつある。
国民民主党が求める「年収の壁」引き上げについて首相は「厳しい財政事情を踏まえた議論が併せて必要」と答弁した。
日本維新の会が主張する高校授業料無償化に対しては「安定的な財源の確保といった論点も必要だ」などと述べた。
慎重な答弁に終始したのは、与野党の政策協議が難航していることが背景にあるようだ。
予算案は24年度内に成立するかが焦点だ。少数与党には、野党の協力が欠かせない。
そのため首相は予算案審議で、野党の主張を十分に聞き「真摯(しんし)に議論していく」と、予算案の修正も辞さない構えだ。熟議の国会の成果が試される。
立憲民主党の野田佳彦代表は「企業・団体献金の禁止や選択的夫婦別姓にも立ち向かわなければいけない」と述べ、首相に決断と実行を迫った。
首相は企業・団体献金について「不適切とは考えていない。透明性を確保する取り組みを進めている」と継続する考えを示し、従来の発言の域を出なかった。
与野党は3月末までに結論を得ると合意しているが、廃止を求める野党との開きは大きい。
選択的夫婦別姓に関して首相は「結論を先延ばししてよい問題とは考えていない。党での議論の頻度を上げ、熟度を高めたい」と述べたものの、具体的な方向性は示さなかった。
この問題で自民党内の議論は停滞し、導入に前向きな姿勢を示す与党公明党との溝も目立っている。首相の指導力が問われる。