決して目を背けてはならず、忘れてはならない歴史だ。人間の命と尊厳をいともたやすく奪った残虐な行いは、永遠に許されることはない。生存者が高齢化し、少なくなる中でも、記憶と教訓を継承していかねばならない。
第2次大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)を象徴する、ポーランドのアウシュビッツ強制収容所の解放から80年となった。
節目の日には収容所跡で追悼式典が開かれ、56人の生存者が出席した。記憶を語れる人の多くは90歳代で、多数の生存者が集う最後の機会だろう。
アウシュビッツ強制収容所では、ソ連軍が1945年1月に解放するまで、ユダヤ人ら約130万人が移送され、110万人以上がガス室などで殺された。
追悼式典で、99歳の元収容者は「人種や宗教、性的指向が異なる人への不寛容や嫌悪に敏感になれ」と訴えた。
発言の背景にあるのは、欧米でポピュリズム(大衆迎合主義)的な政治家や、排外主義を主張する右派、極右政党の勢いが増していることだ。
昨年の欧州連合(EU)欧州議会選挙では、極右や右派が議席を増やした。オランダは反移民、反EUの極右、自由党主導の連立政権が発足した。フランス国民議会(下院)選も、極右「国民連合」が党史上最多の議席を獲得した。
ドイツでは、排外主義を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭している。
AfDの議員らは、ナチス親衛隊の制服を着ていた若者を擁護する発言をしたり、ナチスのスローガン「全てをドイツのために」という公共の場での禁句を口にしたりしている。
ナチスを「絶対悪」とすることに異を唱える動きでもあり、看過できない。
不法移民排斥を進め、多様性・公平性・包括性(DEI)推進に関する政策を廃止したトランプ米政権が、右派の勢いをますます助長させることも予想される。
このままではアウシュビッツの教訓が風化しかねず、心配だ。
元収容者は「過去の過ちを繰り返さないために、警戒を怠るな」とも呼びかけ、反民主主義や排他主義を食い止める努力を促した。
アウシュビッツで起きた悲劇を二度と起こしてはならない。そのためにも自由で寛容な社会の大切さを、改めて胸に刻みたい。
