新発田市民403人の筆でつづられた一冊の本がある。「生きる 戦時下しばた市民の記録」。1982年に刊行され、満州事変から太平洋戦争までの従軍経験や銃後の苦労、終戦後の混乱などが、それぞれの目線で描かれている。歴史学者らが編んだ戦史には書かれていない市井の人々の戦争があった。戦後80年の夏、寄稿者の遺族らを記者が訪ね、「草の根の記憶」をたどった。(4回続きの3)

寄稿集「生きる 戦時下しばた市民の記録」

 南太平洋の激戦地・ガダルカナル島から日本軍が撤退し、敗色が濃厚となっていた1943(昭和18)年5月。29歳だった小野七蔵(しちぞう)さん=新発田市滝=は、赤紙(召集令状)を受け取った。田植え準備真っ最中の時季だった。妊娠中の妻と子ども2人を置いて仙台の部隊に入り、秋に山口県の下関港をたった。

 マレー半島での訓練を経て、ビルマ(現ミャンマー)に到着。インド北東部の英軍拠点の攻略を目指す「インパール作戦」に...

残り1706文字(全文:2093文字)