分配戦略は影を潜め、改革の方向性が変わったように映る。成長戦略の焼き直しが目立ち、これまでの政権との違いが見えない。

 岸田文雄首相の看板政策である「新しい資本主義」の実行計画案がまとまった。

 新しい資本主義は首相が唱える新たな経済政策の考え方で、成長と分配を両立させて持続可能な経済を目指す。岸田政権下初の経済財政運営の指針「骨太方針」案の中核となるものだ。

 計画案は格差拡大や気候変動問題の解決を新たな成長につなげるとし、「人への投資」「脱炭素・デジタル化」など4本が柱だ。

 人への投資では、学び直し支援として3年間で4千億円規模の施策を想定、100万人の能力開発や再就職支援を目指す。

 個人の資産形成を促し、株式投資などから得る利益を増やす「資産所得倍増プラン」を策定する。

 首相は昨秋の自民党総裁選で、安倍晋三元首相が進めた規制改革などの成長戦略に加え、分配政策にも目配りし、「成長と分配の好循環」をスローガンに掲げた。

 理解に苦しむのは、自らの看板政策で初の計画案なのに、要となる分配戦略が弱くなり、「岸田カラー」が薄まったことだ。

 象徴的なのは、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略というアベノミクスの「三本の矢の枠組みを堅持」との文言が入った点だろう。

 積極財政派の意向が色濃く反映されたのは、党内最大派閥のトップである安倍氏に対する岸田首相の配慮とも指摘される。

 首相は総裁選で、富裕層を念頭に置いた株式売却益など金融所得への課税強化を打ち出したが、総裁に選出されると株価が下落に転じたため、早々に封印した。

 首相就任前後には「令和版所得倍増」を訴え、中間層の所得拡大を図る考えを示したものの、急激な物価上昇に対して賃上げの動きは鈍く、計画案では「資産所得倍増」という新たな目標を立てて軌道修正を図った。

 参院選を意識して、訴求力のある経済対策を提示しておきたい思いが強いからだろう。

 資産所得倍増プランでは貯蓄から投資への流れを加速させる考えだが、資源価格の高騰などで生活必需品の値上げが相次ぐ中、余力のある世帯は限られる。

 政府は、経済をしっかり上向かせると同時に、賃上げの推進に地道に取り組み、恩恵が家計に及ぶようにするべきだ。

 計画案は参院選後に想定される大規模な経済対策の土台となるもので、「必要な財政出動や税制改正は機動的に行う」としたが、課税強化や国債発行など具体的な財源には触れていない。

 財源や将来世代への負担についてもしっかりと議論しなくては、責任ある政策とは言えまい。