地球温暖化や水不足などの環境問題が、私たちの暮らしに深刻な影響を及ぼしている。その解決に向けた道を開く成果である。長年の研究が世界的に評価されたことを喜びたい。

 今年のノーベル化学賞に、北川進京都大特別教授と、オーストラリア、米国の研究者の計3氏が選ばれた。授賞理由は、ガスや化学物質が通り抜けられる空間を持つ「金属有機構造体」の開発である。

 北川氏は8日夜、京都大で記者会見し、「苦労は限りなくある。今回の受賞で化学が認知された」と、研究実績が広く知られることの喜びを語った。

 金属有機構造体は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を回収したり、砂漠の空気から水を採取したりできるほか、水中の有機フッ素化合物(PFAS)の分離など「人類が直面する大きな課題の解決につながる可能性がある」と評価された。

 研究は、医療や次世代エネルギーなど、さまざまな分野での応用が期待されている。新たな技術が開発され、問題解決に貢献する日が待ち遠しい。

 北川氏は近畿大助教授を務めていた1990年ごろ、今回の受賞につながる研究の礎を築いた。

 当初は国際学会で論文を発表しても、データの信頼性を疑問視する意見が相次いだ。

 しかし、その後、他の研究者も同様の発見をして、北川氏は世界のトップクラスに躍り出た。

 周囲の冷淡な反応にもめげず、研究を粘り強く続けたことが快挙につながったと言えよう。改めて敬意を表したい。

 北川氏は、6日に生理学・医学賞に選ばれた坂口志文大阪大特任教授に続く受賞決定となった。化学賞は2019年に選ばれた吉野彰旭化成名誉フェロー以来6年ぶりで9人目となる。

 資源の乏しい日本にとって、科学技術分野で優秀な人材を確保することは重要な課題の一つである。学生の理系離れを招かないようにしたい。

 北川氏は会見で、子どもたちへのメッセージを問われ、「育っていく過程でいろんな経験をするのを大切にしてほしい。将来花が開く」と述べた。

 ノーベル賞の相次ぐ受賞は、理系を目指す若者の背中を押すことだろう。理系の学部で学ぶ学生の励みになってほしい。