夫婦のいずれかが改姓する必要がある点は現状と変わらない。不利益が解消されるのかも不透明だ。選択的夫婦別姓の導入を求める声が根強い理由を直視し、多様な生き方を支える制度作りを進めなければならない。

 政府は、旧姓の通称使用の法制化を検討することを、第6次男女共同参画基本計画に明記した。

 5次計画では旧姓の通称使用について「拡大や周知に取り組む」としてきたが、旧姓使用の拡大を持論とする高市早苗首相の意向を反映し、踏み込んだ形だ。

 公的書類に旧姓だけを記す「単記」も認める内容で、旧姓を社会生活で広く使えるようにする。現行ではパスポートなどには、戸籍上の姓と旧姓が併記できる。

 黄川田仁志男女共同参画担当相は「婚姻による氏(姓)の変更で不便や不利益を感じる人を減らせる」と法制化の意義を強調した。

 留意すべきは、旧姓の通称使用の固定化で選択的夫婦別姓の導入が遠のくとの懸念が、当事者や経済界に広がっていることだ。

 旧姓の法制化は、戸籍上の「夫婦同姓」の維持を前提とする。婚姻により、夫婦のどちらかが改姓を迫られる状況は続く。

 戸籍上の姓を同じにするか別にするかを夫婦が選べる選択的夫婦別姓制度とは大きく異なり、別姓を求める人たちが訴えてきた、生まれ持った姓を奪われる苦痛や人格権の侵害といった問題は放置されたままとなる。

 旧姓の単記で、どれだけ利便性が高まるのかも見通せない。

 高市首相は国会答弁で、マイナンバーカードや運転免許証、パスポートといった厳格な本人確認の際に用いられる証明書は、「併記を求める検討が当然必要」との認識を示している。

 重要書類で単記が認められない可能性が高い。利便性が上がるとする政府の説明は説得力を欠く。

 旧姓法制化が実現すれば「二つの公的な姓」が生まれ、管理する自治体や企業が膨大な費用や手間を強いられるとの課題も浮かぶ。

 「誰のためにもならず、混乱を生むだけ」との専門家の指摘を、政府は受け止めるべきだろう。

 選択的夫婦別姓制度を巡っては、1996年に国の法制審議会が、別姓制度の導入を含む民法改正案の要綱を答申した。審議会では旧姓の法制化は「混乱を招く」と否定していた。

 法律で夫婦同姓を義務付けている国は日本以外になく、国連の女性差別撤廃委員会も4回にわたり、民法の夫婦同姓規定を「差別的」と批判している。

 一連の国内外の動きを見ても、旧姓の法制化では対処できない問題があることは明らかだ。

 政権が数を頼みに法制化を急げば禍根を残す。困難に直面する人の訴えに真摯(しんし)に耳を傾け、最善策を講じるのが政治の役割である。