新潟県内でかぶり物をして活動する人たち。イチゴの山倉慎二さん(右上)、イカの宇留間義矢さん(左上)、萬代橋の西潟茉莉奈さん(右下)、おむすびの長谷川真也さん(左下)=作成はデジタル・グラフィックスセンター・飯田夢奈

 2年前、気になる動画を見つけた。新潟県産ブランドイチゴ「越後姫」の取材のため、インターネットで調べ物をした時のことだ。

 動画には真っ赤なイチゴのかぶり物をした男性が出演していた。頭全体がイチゴですっぽり覆われている。ひょこっと出した顔には、鋭い目つき、ワイルドな口ひげとあごひげ。ラップで越後姫のことを何やら歌っている。かわいらしいイチゴとは不釣り合いなインパクトがあった。

 あの人は何者だろうか。ずっと気になっていた。動画を見直すと「スーパー・エチゴヒメ・ギャングスタ」と名乗っている。早速、訪ねてみた。

 ギャングスタの正体は新潟市江南区の山倉慎二さん(37)。両親と一緒に越後姫やコメ、ホウレンソウを作る農家だった。

 なぜ、かぶり物をしているのか。「目立つ格好をしておちゃらけるのではなく、まじめに越後姫をPRする。そのギャップを面白がってもらいたい」と山倉さん。その姿には、農業に対する熱い思いが込められていた。

 おむすび、イカ、萬代橋-。さまざまなかぶり物をして活動する新潟県民は他にも見つかった。奇抜なルックスの理由を尋ねてみた。

(三条総局・武田裕朗)

父の熱意に打たれ変身

イチゴ農家・山倉慎二さん

 イチゴのかぶり物をする山倉慎二さん(37)は新潟市江南区の農家に生まれ、新潟県農業大学校を経て親元で就農した。ただ、当初は「敷かれたレールを走るだけ」と熱意を持てずにいた。

 転機は20代後半。普段口数の少ない父・裕一さんが酔った拍子に語った時だった。労力のかかる土耕栽培にこだわり、おいしいブランドイチゴ「越後姫」を生産したい-。とつとつと語る姿に心を打たれた。「うちのイチゴを多くの人に知ってほしい」と決意した。

 そこからブログや交流サイト(SNS)を通じて情報発信した。「興味を持ってもらうために」と思い立ち、イチゴのかぶり物に手を伸ばした。大好きなダンスとヒップホップ音楽を生かした「スーパー・エチゴヒメ・ギャングスタ」の誕生だった。

 2年前にギャングスタの動画をネットに投稿した。動画では、越後姫の特徴を歌詞にまとめた自作の楽曲「越後姫.ほっぺがフロアにゲットダウン」を披露。「甘い香りの誘惑 口にほおばるぜいたく」と軽妙に韻を踏む。

山倉慎二さんが「スーパー・エチゴヒメ・ギャングスタ」として越後姫をPRする動画のワンシーン

 かぶり物姿で直売所の店頭販売に立つことも増えた。当初は買い物客から避けられることが多かったものの、新潟県内のテレビ局で取り上げられるようになって近寄る人が増えた。だが、赤ちゃんには相変わらず怖がられる。

越後姫の店頭販売でかぶり物をして買い物客と触れ合う山倉慎二さん=新潟市中央区

 実家の屋号にちなんだ「SHOKURO(ショークロ)お兄さん」とも名乗り、自身が生産するコメもPRする。今年1月には米ロサンゼルスへ乗り込み、おむすびのかぶり物をして炊きたてコシヒカリを振る舞った。信条は「農業にエンターテインメントを」。一風変わった農業振興の挑戦は始まったばかりだ。

人見知りを補い武器に

つまみ業者・宇留間義矢さん

 食べ物や雑貨が並ぶマーケット会場で、頭一つ飛び出たイカのかぶり物...

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