
新潟県長岡市で勤務していた3年ほど前、爽やかなカクテルが飲みたいと、ふらっとバーに立ち寄った。カウンターでフルーツカクテルを味わっていると、店内に軽快な音楽が流れ始めた。
何が始まるのだろうと思っていると、いきなり目の前のバーテンダーがリキュールのボトルを空中に投げた。宙を舞って回転するボトルを見事にキャッチ。シェーカーも一緒に回したり背面で受け止めたりし、あっと驚くようなパフォーマンスを次々と繰り出した。
店内には手拍子が湧き起こり、クライマックスはグラスの塔に炎をまとわせ、カクテルが完成した。偶然目にした華やかなショーに「かっこいい。こんなカクテルの作り方があるのか」とくぎ付けになった。
バーテンダーがボトルやシェーカーを投げたり回したりして華麗にカクテルを作る技術を「フレアバーテンディング」(フレア)という。技は多様でバーテンダーのスタイルもさまざまだ。
全日本フレア・バーテンダーズ協会によると、1849年に米国のバーテンダー、ジェリー・トーマスが初めて作った、二つの銅製のマグカップにお湯と火の付いたウイスキーを入れて注ぐ「ブルーブレイザー」というカクテルが、フレアの起源とされる。
日本では、俳優トム・クルーズが主演の映画「カクテル」が1980年代後半に公開されてブームとなり、90年代後半からは本格的なフレアバーができたり、フレアの第一人者らが団体を作ったりして広まり始めた。今では全国各地にショーが見られるバーがあり、新潟県内にも実力者がいる。
驚きの技で客を魅了し、至高の一杯を提供するフレアバーテンディングの魅力を探った。...
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