【2021/06/07】

 児童数約200人のマニラ日本人学校で、図画工作や美術を教えています。仕事柄、休みの日は自宅で絵を描いています。

 こちらに来てからは動植物や風景を描くようになりました。自分が感じた日差しや風といった南国特有の自然を題材にしています。

 ほかにも「早く描かなければ」という思いが強くなったテーマがあります。それは「戦争」です。

 フィリピンには第2次世界大戦の戦跡を見られる場所がいくつもあります。今回、私が描いたのは、コレヒドール島にある「ウェイ砲列」です。そこで見た壁とドアをモチーフにしています。かつて島中に響いていたであろう轟音(ごうおん)と現在の島の沈黙を、壁に刻まれた銃痕とドアの奥の暗闇の対比で表現しました。

戦争をテーマにした自作の作品「轟音と沈黙(未完)」

 日本で教壇に立っていた40代前半までは、戦争をテーマとした絵を描くことには興味がありませんでしたが、フィリピン赴任を機に思いが芽生えました。

 それは、祖父の存在を思い出したからです。祖父は陸軍の軍人でした。第2次大戦中、祖父が乗っていた軍艦がフィリピンに向かう途中、上陸前に空爆に遭い、沈没したのです。祖父は帰らぬ人になりました。

 祖父の話は父から何度も聞かされていましたが、幼い私には祖父のことも戦争のことも他人事でした。

 しかし、ようやくこの年になって祖父の存在や戦争のことを自分のこととして捉えられるようになりました。

 今日では、あらゆる情報が簡単に手に入るようになり、その傾向はますます加速していくのではないかと思います。ただ私たちは、デジタルだけでは生きていくことはできません。

 私が教えている図画工作や美術はパソコンでは培うことができない、心の動きが何よりも大事になります。私が戦争をテーマにした作品を描いたのも心が動いたからです。

 子どもたちには、技術だけでなく、そうした「心」も教えていきたいと思っています。

◎田代豪さん(糸魚川市出身)田代さんは1971年生まれ。97年から県内の中学校の教諭として勤務し、2019年からマニラ日本人学校に赴任しています。