フランスでは3~5月の間、ロックダウンが実施され、小中学校は6月末まで閉校となった。子育て中の働く親たちは、子どもが24時間そばにいる環境でのテレワークが日常となったが、容易ではない。
子どもが寝静まった真夜中や早朝の作業やメールのやりとりも珍しくなくなった。当初、2週間の予定だったロックダウンが長期化しはじめると、読み書きを習い始めたばかりの娘にも担任の先生お手製の宿題が送られてくるようになり、頭を抱えることになった。
宿題をみるのに2~3時間はかかる。子どもを持つ友人は皆、曲芸のような日々だと口をそろえた。ロックダウンを宣言した演説でマクロン大統領は「この機会に読書をするとよい」と国民に説いたのだが、子育て世代にとっては優雅に本を読むなど夢のまた夢なのだ。
そんな時、同僚の元ソルボンヌ大学教授が、忙しい娘に代わりインターネット通話で孫にラテン語を教えていると聞いた。古典文学はともかく、母国語の読み書き程度ならと義母に相談したら快諾。
午前中は祖母と勉強というリズムができてからはずいぶん楽になった。娘は話し相手ができてうれしそうだったし、3歳の次女もときどき参加しては笑顔を振りまいた。新潟の祖父母にも応援を頼んで相手をしてもらい、オンライン紙芝居もやってくれた。友達に会えず隔絶された生活を送っていた娘たちにとって、それが唯一の貴重な社会とのつながりだったのだ。
子どもに寛容なフランス社会もロックダウン中のテレワークを支えてくれた。オンライン会議では、好奇心旺盛な子どもたちが画面に映り込むこともまれではなかったが、そんな様子を温かい目で見守ってくれた。
6月末から2週間というつかの間の学校再開を経て、子どもたちは2カ月弱の夏休みを迎え、フランスの人々はこぞってバカンスに旅立った。第2波が懸念される中、9月に新年度が始まった。人類の英知がウイルスの脅威に打ち勝つことを願ってやまない。

関本 菜穂子さん(新潟市西区出身)
(関本さんは1980年生まれ。東京藝術大学博士課程修了、音楽学博士。フランス音楽分析学会、ソルボンヌ大学などで働いています)