パリから電車で4時間近く。私の住むカンペールの街はフランス北西部、三方を海に囲まれたブルターニュ地方に位置します。

 ブルターニュはブレイス語という独自の言葉や巨石遺跡が存在するなどパリとは違った魅力に満ちています。

 ブルターニュの名物といえば、そば粉のクレープ(ガレット)がまず挙げられます。カンペール中心部のバター広場には10軒ものクレープ店があり、一年中観光客が訪れます。

 カキも名物で、日本のカキ産業と縁があります。1963年の大寒波でカキの80%が絶滅した時、日本の三陸の養殖業者が救援のためカキを空輸しました。これを養殖してブルターニュのカキは立ち直りました。

 また、2011年の東日本大震災では大打撃を受けた三陸産のカキを救おうと、ブルターニュから三陸へカキが送られました。カキが二つの国の「懸け橋」となったわけです。

 ブルターニュの文化も魅力的です。古くからの伝説が数多くあり、それを伝承する人もいます。お祭りなどで、子どもも大人も輪になり、何時間も「ダンス・ブルトン」を踊り続ける光景は、他では見られないでしょう。

 新型コロナウイルスで外出禁止令が出されて以来、ブルターニュの人々はひっそりと暮らしてきました。街や通りでは猫一匹見かけなくなり、聞こえるのは鳥のさえずりのみ…。

 6月に入って外出制限が解除されました。恐る恐る外に出た人々が真っ先に向かったのは、街ではなく海でした。ブルターニュの人々と切っても切れない場所、すべての歴史が始まり、安らぎと活力が得られる所、それが海なのです。

カンペール近郊の海。外出制限の解除後は多くの人が訪れた


 ブルターニュでは経済・文化活動が再開され、人々の笑顔が戻りつつあります。このまま、ウイルス終息へと向かうことを願わずにはいられません。  


成嶋 志保さん(新潟市出身)
 (成嶋さんは東京音大付属高卒業後、1995年に渡仏、ピアニストとして活躍し、日仏の懸け橋となるような演奏会を企画しています。2018年からカンペール在住)