「二兎(にと)を追う者は一兎をも得ず」「あぶ蜂取らず」。ことわざが象徴するように、かつての日本社会は「二つ以上を同時にこなすのは中途半端だ」といった考えが主流だったように思う。だが時代とともに、価値観は大きく変わっている。
米大リーグ大谷翔平選手は投打に活躍。スノーボード金メダリストの平野歩夢選手(新潟県村上市出身)が、スケートボードに挑んだ姿は記憶に新しい。前例や定説を覆した2人の「二刀流」は人々を勇気づけた。
企業では副業や兼業を認めるだけでなく「推奨」する動きもある。職場外で築いた人脈と力が、会社にも利益をもたらすという。
一つに縛られないスタイル-。新潟県の燕三条地域でも、複数の業態を合わせたユニークな店舗を目にするようになった。
燕市宮町の商店街に2021年秋にオープンした「写真と珈琲(コーヒー) SIIKS(シイクス)」は写真スタジオとカフェを兼ねる。経営する内山芳文さん(37)はフォトグラファーだが、調理場で腕を振るい、ランチやスイーツを提供する。「自分の人生の目的は人を喜ばせること。その手段が写真と料理だった」と屈託ない。
同じ燕市の吉田地区には、美容室とカフェを核に雑貨店、本屋、コインランドリーが入る「ツバメコーヒー」がある。2012年秋、美容室の軒先にコーヒースタンドを設けたのを始まりに、改装を重ねてきた。店主の田中辰幸さん(45)は「当初は何とかここを維持しなければと切迫した状態。試行錯誤し、今に至る」としみじみと振り返る。
三条市では廃工場や空き家をリノベーションした複合施設が地域に新しい風を吹き込んでいる。
二刀流、三刀流の楽しみ方ができる、燕三条の四つの施設を訪ねた。...
残り3342文字(全文:4052文字)