新型コロナウイルスの感染拡大防止のための自粛生活を始めて、かれこれ2カ月がたとうとしています。

 自粛の要請が出る前から、自主的に在宅ワークを始めていた私は、ほとんどの時間を自宅で過ごしています。

 2カ月という時間は、生活や身体、価値観を変えるには十分な時間です。

 異様に感じていた完全防備の店員や、マスク姿の人々、空っぽのビル、「コロナウイルスのため休業」と書かれた店先の手作りポスターも、いつの間にか日常の風景となっていきました。

人の姿が消えたニューヨークの地下鉄の駅。人々は一日も早い終息を願っている

 そんな状況に身を置いていると、以前を懐かしく思い出すことがあります。

 人と人との距離感がとても近く、店員やドアマン、隣人とすぐ仲良しになったこと。観光客が街で自撮りに明け暮れ、夢と野心に目を輝かせながら仕事に汗を流す移民たち。ずっと動き続けることが美しいことかのように、この街は夜になっても眠ることなくキラキラと輝いて見えました。

 私は街に出て人々の写真を撮る仕事をしていたので、家にいる時間が増えると、自分がいかに外の世界と関わりながら生きてきたのか、日々いろいろな人や出来事、風景に出あいながら生きてきたのか、生かされてきたのかということをとても強く感じるのです。

 少しアンニュイな気持ちになりがちの日々ですが、毎日午後7時になると、窓から歓声や声援、楽器を鳴らす音が聞こえてきます。

 ニューヨークでは、医療関係者やエッセンシャルワーカーに向けて声援を送り合うムーブメントがあちこちで起こっています。

 静けさに包まれていた街も、その瞬間だけはニューヨークらしい優しさと強さを取り戻すのです。

 彼らの声を聞いていると今の状況を一緒に乗り越えていこうという気持ちになります。

 この状況を乗り越えた時、それは今までとは違った風景が広がっているかもしれません。

 午後7時。今日も声援を送り合いながら、新しい明日に向けて歩んでいきたいと思います。


鈴木 麻莉子さん(新潟市出身)
 (鈴木さんは1990年、新潟市生まれ。NYを拠点に活動する写真家です)