2018年7月、2度目の駐在で約6年ぶりに上海の地を踏んだ。以前約9年間赴任していた私にとって、中国は異国という感じはない。1度目の赴任は03年の12月。その年は、あまり降らないといわれていた雪が上海では珍しく積もった。寒い冬と灰色の空は、新潟を思い出させた。青空の見える春が待ち遠しかった。

 ただ、当時の上海は春が来ても青空は見えなかった。いや、春どころか一年中見られることはなかった。スモークが貼ってある車の窓越しに空を見ている感じと言えば分かりやすいだろう。雲が空を流れるようなことはなかった。大気汚染に濃霧が加わり、高速道路はよく閉鎖された。飛行機が飛ばないこともよくあった。

 その上海で、10日連続透き通るような青空が見られたことがある。10年5月の上海万博開催前の頃だ。08年のオリンピックに向けて、環境汚染を引き起こす工場を強制的に停止させていた北京と同じように、上海でも厳しく開催地周辺の企業を取り締まっていた。さすがは中国、共産党だからこそなせる業だと思った。

 だが、それからすぐにまた大気汚染に悩まされることになる。今や誰もが知っているPM2・5は、日本では黄砂よりもたちの悪い粒子だと連日報道された。中国でも誰もが毎日スマホで汚染度をチェックしていた。自分の住む街の空気の悪さを、自虐的に自慢する中国人もいた。15年、政府は大気汚染対策13次五カ年計画を打ち出した。

 あれから数年、今やどうだろう。青空を見られる日が格段に増えた。外で運動する人も増えた。空気と共に水道水も透明になっている。中国はありとあらゆるモノがネットでそろい、電子マネーで決済できる。日本よりも進んでいるといわれるネットワークに、この青空があるのなら、上海はなかなか悪くない街だと私は思う。

日本の空と見間違うほどの上海の青空


猪川 知広さん(上越市出身)
 (猪川さんは1974年生まれ。大阪に本社を置く材料商社「扇谷」の上海現地法人総経理を務めています)