北京は中国の首都で政治の中心でありますが、一方では、シリコンバレーのように数多くのベンチャーを輩出してきたイノベーションにあふれた活力のある都市です。

 中国で生活する楽しみの一つは、ネットを使った新しいビジネスが生まれ、それが市民生活に浸透し、瞬く間に開花するダイナミズムを体感することです。

 例えばQRコードを使ったキャッシュレス決済。北京では、スマートフォンひとつで何不自由なく生活できます。公共交通機関や飲食店など、スマホに「微信支付」か「支付宝」のアプリがあれば全て決済OKです。

 それよりも、私が面白いと思うのは、一般庶民がこのキャッシュレス決済を使って次々と新しいビジネスを始めていることです。彼らは、必ずしも高学歴のITエリートだけではありません。

 例えば屋台。北京ではあちこちで老夫婦が路上で屋台を引き、軽食を売っています。これも「微信支付」などのQRコードのステッカーを屋台に貼り付け、キャッシュレスで営業しています。

屋台に貼られたQRコードのステッカーで支払い可能。現金で払う人は皆無

 釣り銭の準備が不要という利点と共に、現金に触れずに済むという点は衛生面でも大きなプラスです。また、決済記録が電子的に残りますので、「いつ、どこでどれだけ売れたのか」というデータが毎日残ります。このデータを活用して効率的な出店が可能になります。これも、小さなビッグデータ活用事例といえるでしょう。

 それでは、屋台や商材をそろえる資本がない人はどうでしょうか? 私は、週末の猛暑日に、路上でバケツを持って雑巾を振り続ける初老の男性を見かけました。彼は、一般道の路肩で洗車サービスを提供しているのです。これなら、一杯のバケツ水と雑巾、それにスマホがあれば今日からでも開業できます。支払いは作業終了後、お互いのスマホをかざし、キャッシュレスで完了!

 今や中国の数多くの庶民が、ビジネスチャンス到来とばかりに、喜々としてこれを活用しています。

 将来の年金の心配をするより、自分に何ができるのかをもっとポジティブに考える! 北京での生活を通じて、彼らのたくましい商魂から毎日パワーをもらっています。


本間 雅之さん(新潟市出身)
 (本間さんは1965年生まれ。日系通信会社で中国勤務は通算10年。北京新潟県人会長を務めています)