パリに来たばかりの頃、物価の高さや治安の悪さ、すぐメトロが止まるなどの交通の不便さなどなど、生活に不安が多くありました。レストランはランチでさえ高い、バーのビールも高い、家賃も高い…。こんなところで生きていけるのかと初めは思っていました。
しかしその分、やはり料理はおいしい。ワインも日本と比べて断然安くて良いものを買えます。安くておいしいものが買える市場を見つけて買い物をしたり、外で覚えた料理の味を家で試してみたり、フランスならではの生活の楽しみ方を徐々にできるようになってきました。
そしてやはりパリは芸術の都。音楽家からすると天国です。フィルハーモニー、オペラ座、シャンゼリゼ劇場など、必ず毎日どこかで一流の演奏家のコンサートが催され、学生はとても安くチケットを購入できます。「今日暇だなぁ。パリ管弦楽団でも聴きに行こうかなぁ」と、日本ではありえない日々を送れるのはパリならではでしょう。
また美術館巡りにハマるようになったのも、パリに来て本当に良かったと思うところです。私はルーヴル美術館、ポンピドゥセンター、オルセー美術館の年間パスを購入し、かなり通いましたが、それでもまだまだ行き足りないくらいです。絵の見方、美術館の楽しみ方はパリに来る以前はあまりよく分からなかったのですが、パリには美術好きな友人もたくさんいて、話を聞いて通ううちにすっかり楽しめるようになりました。
現代音楽を専攻している私は今年2月にシテ・ド・ラ・ミュージックというホールでリゲティのピアノ協奏曲を演奏しました。このようなマニアックな演目でさえ、それを求める多くのお客さまでホールが満席になるパリは、本当にあらゆる種類の芸術を受け入れるすてきな街だと思います。

生活の不便さ(ビザ、交通、デモなど…)にウンザリすることも多々ありますが、やはりそれ以上の魅力や活気がこの街にはあり、多くの芸術家を魅了し続けているのだと肌で感じる毎日です。
大滝 拓哉さん(長岡市出身)
(大滝さんは1987年生まれ。愛知県立芸術大大学院修了。2016年にオルレアン国際ピアノコンクール優勝。17年からフランスに住み、欧州各地で演奏活動を行っています)