2月、ニューヨーク(NY)市が「髪形で人を差別してはいけない」というガイドラインを公表した。
職場で髪形を理由に待遇を変えたり、学校で教師が生徒の髪形をとやかく言ったりしてはいけないというのだ。肌の色も髪の色も髪形も多様な「人種のるつぼ」NYでいまさらかと、驚いた出来事だ。
日本では、職場や学校で髪形や髪の色が厳しく制限されてきた。生まれつき髪の色が明るかった私の同級生は、「周りと合わせるため」わざわざ髪を黒く染めていた。ハードロックやヘビーメタルが好きな私は、憧れのミュージシャンのまねをして学生時代から髪を長くしてきたが、高校では教師からハサミを持って追いかけられ、会社では上司に「社会人らしく髪を切れ!」と怒られ、いやいや髪を短くしていた(それでも人よりは少しだけ長かったが…)。
NYで私の長髪に文句を言う人はいない(妻以外は)。周りからはむしろそれが私の「個性」と受け入れられている。そんなこともあり、自分が人からどう見られているかをあまり気にしなくなった。自分より個性的で「変な」人間が多いということもあるだろう。日本では「出るくいは打たれる」というが、NYでは「他のくいも出ているから打たれにくい」のかもしれない。

毎年6月に開かれるNY市のLGBTパレード。世界中から集まった個性的な髪型、服装の人たちでにぎわう
そんなNY生活も楽なことばかりではない。日本では考えられない不便さを数えきれないほど経験してきた。地下鉄やバスが時間どおりに来ない、店員や警官の態度が悪すぎる、公衆トイレがなかなか見つからない…といった具合だ。
なぜそんな不便なNYに長く住んでいるのか。正直、自分でもよく分からない。日本食が大好きだし、日本のテレビ番組を楽しみに見ている。周りからは「日本に帰れば?」とよく言われる。それでも私はNYがいい。人がどんな髪形にしても放っておいてくれるおおらかさがこの街にはあるからだ。
山田 久さん(新潟市出身)
(山田さんは1970年生まれ。高校卒業後に家族で米国に移住し、現在は日系テレビ制作会社で報道の仕事に携わっています)