私は1986年にケンブリッジ大学に留学後、ロンドンで日本企業のために弁護士活動を行っています。ロンドンで仕事をして感じた英国と日本の文化の違いについてお話しします。

 日本人は、人と人との個人的かつ抽象的な信頼関係に基づいてビジネスを構築し、契約の相手が日本人の想像力を超える存在であることに思いが至らない場合があります。曖昧な言葉を好み、これに甘えて約束を取り交わす傾向があります。

 西欧の社会は、明確かつ厳格な言葉を積み重ねてゼロから相手との信頼関係を形成しようとします。モーゼの十戒に象徴される契約的なものの考え方とはそのようなものです。このような考え方の相違が日本人と英国人の紛争の原因になることがあります。

 国際社会において契約書は、お互いの権利・義務を明らかにして信頼関係を築くために不可欠な道具ですが、日本人は、ビジネスを行う場合でも、相手方との人間関係を重視するあまり、契約書を有効に使い切っていない傾向があると思います。

 英国は、日本企業が中東で行うさまざまなプロジェクトの基地です。ある日本企業がコンサルタント契約を軽視して不明確だったために紛争になったケースや、英国人のスタッフを雇用している日本企業では英国人従業員と雇用契約上の問題が発生することもあります。日本と英国の文化の相違に対する認識もなく、日本的な「和」の精神を中途半端に英国人に押し付けようとすることが紛争の原因であることがよくあります。

 英国は現在、欧州連合(EU)からの離脱をめぐって混迷の中にいます。英国は古くからドイツやフランスなどのヨーロッパ大陸の諸国を「大陸」(Continent)と呼び、異なる伝統や文化を育んできました。EUからの離脱がどう決着するのか予断を許さない状況ですが、私たち日本人も、文化の壁を乗り越えるために、想像力を豊かにし、異なる考え方を有する人々と共存していく姿勢が大切であることを教訓として感じています。

にぎわうロンドンの繁華街ピカデリーサーカス

 


中田 浩一郎さん(糸魚川市出身)
 (中田さんは1952年生まれ。英国の法律事務所に常駐し、多くの日系企業や政府機関を代理しています)