イラストはデジタル・グラフィックスセンター・吉田梨花

 「黄金比」。なんとも豪勢な感じがして魅惑的な言葉だ。とはいえ私の黄金比といえば、焼酎お湯割りの6対4。お湯を多めにして寒い冬の夜は暖房代わりに杯を重ねる。豪勢な印象は全くない。

 一方、デザインや数学の世界では、黄金比「1対1・6180339……」が知られている。円周率のように数字はどこまでも続いていく。

 古くはギリシアのパルテノン神殿やミロのビーナス像に現れる。米ニューヨークの国連本部ビルにも見て取れる。エジプトのピラミッドも高さと底辺の比がだいたい黄金比だといわれている。

 新年を迎えて、正月の品々を見てみた。お年玉のポチ袋や切り餅がおおよそ黄金比だった。私が子どもにあげるお年玉は黄金にほど遠いが、ポチ袋はほぼ黄金だ。

 身の回りにも多い黄金比。どうしてこれほど多くに現れるのだろうか。

 「黄金比は自然界に埋め込まれている神秘的な数字です。人間が暮らす中で見慣れているから、心地よく感じるのでしょう」。長岡造形大学(新潟県長岡市)デザイン学科教授の境野広志さん(61)=プロダクトデザイン=は、そう解説する。

 自然界に埋め込まれているとはどういうこと?

 黄金比と自然の関係を探るには「フィボナッチ数列」や「らせん」をひもとく必要があるそうだ。

 身の回りで黄金比を探してみた。

(上越支社・阿部義暁)

見た目を変えると「県庁」スラリ、「朱鷺メッセ」ドーン

 最初は難しく考えずに、身近な建物から黄金比を感じてみた。だいぶ乱暴なやり方だが、新潟県庁と朱鷺メッセ(新潟市中央区)を図面からではなく、「見た目」を黄金比にしてみた。

 県庁を正面から眺めると、塔に見える部分の横幅と高さの比は1対1・23だ。コロンとした印象だ。県庁を縦に伸ばし黄金比にしてみると、どうだろう。シュッとして、堂々としたビルに感じてくる。

 

 朱鷺メッセは、船をイメージして設計された建物だ。31階建ての万代島ビルはスマートな格好良さがある。信濃川の対岸から見ると、ビルの横幅と高さの比は1対2・79でかなり細長い。

 強引に黄金比に当ててみると、冒頭で紹介した国連本部ビルに似てきた。威圧感が出てきて、船らしさは消えてしまった。

 黄金比は「最も美しい比率」と...

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