
能登半島地震は、原発の防災対策への疑問を改めて突きつけた。原発の安全性議論の土台となる地震研究は、どこまで深まっているのか。原発の設備や、事故時の住民避難の態勢は十分なのか。長期企画「誰のための原発か 新潟から問う」の今シリーズでは、自然の脅威が浮き彫りにした課題を検証する。(7回続きの1)=敬称略=
つぶれた多数の家屋が無残な姿をさらし、道路には瓦や割れたガラスが散乱していた。2024年1月1日に発生した能登半島地震から約1カ月後の2月上旬、大きな揺れの爪痕が残る石川県輪島市の中心部を、土木学会土木工学に関する調査、研究などを行う団体。国内有数の工学系団体で、教育・研究機関のほか、建設業、エネルギー関係、鉄道・道路関係、行政機関など、さまざまな分野の会員が所属する。の調査団が視察した。

土木学会による能登半島地震の被害調査。大きな揺れで多くの建物が深刻なダメージを受けた=2月、石川県輪島市
地上7階建てビルが横倒しになり、基礎部分まであらわになった現場で、一行は足を止めた。「非常に衝撃だ」。副会長で調査団の副団長を務めた東北大教授(津波工学)の今村文彦(62)は、建物の地震対策は地盤と一体で考えるべきだと報道陣に語った。
最大震度7の強い揺れに津波、液状化水分を多く含んだ砂質の地盤が、地震による強い揺れで液体のように流動化する現象。地表に水や砂が噴出したり、地盤が沈下したりする。土管やマンホールが浮き上がることもある。埋め立て地や干拓地など、緩い砂質で地下水位が高い場所で起こりやすい。条件を満たせば内陸でも発生する。1964年の新潟地震では橋や鉄筋コンクリートの建物といった大型構造物が崩れ、対策工法の開発が進むきっかけになった。阪神大震災や東日本大震災でも発生した。、土砂崩れ、大規模火災…。珠洲市なども巡った調査後の会見で今村は、地震地下で起こる岩盤がずれ動く現象。プレート(岩盤)が動き、押したり引いたりする力が加わることで、大地にゆがみが蓄積され、ゆがみが限界に達すると断層面を境に急速にずれ動く。ずれの衝撃が地面に伝わり、地面が揺れたものを「地震動」や「地震」と呼ぶ。震動の強さは「震度」で表す。観測する地点によって「震度」は異なる。に伴い想定される種々の災害が複合的に生じたと指摘。「全国どこででも起きる可能性がある。特に地方で対策が必要だ」と険しい表情を見せた。

能登半島地震の被害調査をする土木学会の今村文彦・調査団副団長(左から2人目)ら=2月6日、石川県輪島市河井町
能登半島の中央部、石川県志賀町にある北陸電力志賀原発北陸電力が運営する原発。1~2号機まである。1号機は1993年に営業運転を開始、設備容量は54万キロワット。2号機は135・8万キロワットで、2006年に営業運転開始。東京電力と同じ沸騰水型炉(BWR)で、2号機は改良型(ABWR)。では、1号機原子炉建屋地下で震度5強を記録。変圧器が壊れて外部電源が一部使えず、敷地内に段差が生じた。「全国どこでも」という今村の言葉は、原発の立地地域が抱える懸念と重なる。
能登半島は多くの専門家が注視するエリアだった。2020年12月以降、地震活動が活発化し、震度5弱〜6強の揺れが繰り返し発生してきたからだ。
金沢大教授(地震学)の平松良浩(55)は1月1日、帰省先の滋賀県で大きな揺れを感じた。「珠洲の方か」。直感は当たっていた。

輪島市中心部で土木学会が行った被害調査の様子=2月6日
マグニチュード(M)7クラスの地震が起きると警鐘を鳴らし続けてきた。多数の地震が起きてもなお、能登半島沿岸の海底の活断層かつて地震を引き起こし、今後も同じような活動をする可能性がある断層。断層の中でも、過去の一定期間に繰り返し動き、地震を引き起こした断層は、将来も同じように活動する(ずれ動く)可能性があると考えられている。日本ではおよそ2000の活断層があるとされる。が動くリスクは残ったままだと気がかりだった。
政府の地震調査委員会地震に関する観測、測量、調査や研究を行う組織。行政機関や大学などの調査結果を集めて整理・分析し、総合的な評価を行う。は能登半島地震について、複数の断層が連動した可能性が高く、150キロほどの範囲で活発な地震活動が続いていると分析。連動の範囲は、警告を続けてきた平松にとっても「何かの間違いではないか」と思える長大さだった。どの断層が連動し、どれだけの規模の地震を起こすかは、専門家の間でも議論になっていた。
地震が起きるとしても、今回より小規模である可能性が高いと踏んでいた平松は、断層の連動を受けて語る。「想定外とまでは言わないが、シナリオとしては可能性が低いと考えていた。そういうものでも発生する時は発生してしまう」
能登の警告編―断層<下>へ続く
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