持ち株会社制移行の出陣式に出席した東京電力の広瀬直己社長(右から2人目)ら=2016年4月1日、東電本社
「第4部 再稼働 何のために」紹介

東京電力柏崎刈羽原発新潟県の柏崎市、刈羽村にある原子力発電所で、東京電力が運営する。1号機から7号機まで七つの原子炉がある。最も古い1号機は、1985年に営業運転を始めた。総出力は世界最大級の約821万キロワット。発電された電気は関東方面に送られる。2012年3月に6号機が停止してから、全ての原子炉の停止状態が続いている。東電が原発を再稼働させるには、原子力規制委員会の審査を通る必要がある。7号機は2020年に全ての審査に「合格」した。の再稼働は何のためなのか。連載企画「原発は必要か」の第4部では、再稼働問題をめぐる東電の経営事情や、原発が抱える課題を探る。(文中敬称略、本編全8回)

<1>首都圏向けの供給過剰に

電力小売り全面自由化に伴い、家庭向けに参入した「新電力」と、長年市場を支配してきた東京電力との攻防が首都圏で展開されている。

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<2>自由競争下で値下げ実現

日本経済を支えるために、柏崎刈羽原発の再稼働が必要だ-。地元経済界ではそんな声がよく聞かれる。

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<3>東京電力の原子力コスト「9・8円」

電気は足りている。それでも原発の再稼働が望まれるのは、発電コストが安いとされているからだ。

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<深掘り>発電コスト試算、45年のデータ精査

新潟日報社が東京電力の原発の発電コストを試算すると、1キロワット時当たり「9・8円」で、火力発電よりも高かった。

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<4>発電ゼロでも巨額の経費

原発は事故のリスクを加味すれば、決して発電コストが安いものとは言えない。東京電力社長は「経営安定のために柏崎刈羽原発の再稼働が必要」と強調する。

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<5>回収できなければ投資は「不良債権」に

柏崎刈羽原発の敷地内はこの5年で大きく変わった。海沿いには城壁のような防潮堤がそそり立つ。構内道路沿いの緑地帯は、火災の延焼を防ぐためモルタルで固められた。

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<6>全基廃炉でも最小で赤字2911億円

「柏崎刈羽原発の稼働は私たちの経営にとって非常に重要だ。動かす必要がないと思っている経営者はいない」。

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<7>原発事故再発なら賠償は困難

東京電力が福島第1原発事故で被災者に支払った賠償額は6兆円を超えた。しかし、民間保険の上限は1原発当たり1200億円にとどまる。

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<8>コスト削減、問われる安全との両立

電力の小売り全面自由化で参入した新規小売り事業者を迎え撃つ東京電力。価格競争で優位に立つために取り組む経営課題がコストの削減だ。

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〔とじる〕

[原発は必要か]のラインナップ

第1部 100社調査

柏崎刈羽原発が地域経済に与えた影響を調べるため、地元企業100社を調査した。浮かび上がったのは、原発と地元企業の関係の薄さだった。

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第2部 敷かれたレール

福島第1原発事故の影響が続く中、東京電力が柏崎刈羽原発を再び動かすレールが着々と敷かれる。誰が、なぜ原発を動かそうとしているのか-。

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第3部 検証 経済神話

再稼働を巡る議論で「原発は地域経済に貢献する」との主張があるが、それは根拠の乏しい「神話」ではないか。統計を基に虚実を検証する。

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第4部 再稼働 何のために

柏崎刈羽原発の再稼働は何のためなのか。再稼働問題を巡る東京電力の経営事情や、原発が抱える課題を探る。

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第5部 依存せぬ道は

再生可能エネルギーの成長が加速する世界的潮流に逆行するかのように、日本で原子力を再評価する動きが目立つ。エネルギー事情の実相を追う。

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〔とじる〕

【2016/4/30】

 電力の小売り全面自由化電気の小売業への参入が全面的に自由化し、消費者は契約する電力会社や料金プランなどを自由に選択できる制度。2016年4月以前は各地域の電力会社が供給から送配電、小売りまでを一貫して行う「垂直統合」の体制だった。小売りの自由化は大規模工場など一部で始まっていた。東日本大震災で顕在化した電力システムの課題を解決するための「電力システム改革」の一環。で参入した新規小売り事業者を迎え撃つ東京電力。価格競争で優位に立つために取り組む経営課題がコストの削減だ。

 「電気をつくるところから必要な経費を全て見直す」

 「1日当たり約13億円のコスト削減」

 東電はホームページ上の動画でそうアピールしている。

 「1日当たり-」とは、2013~22年度の10年間で約4兆8000億円の経費削減という目標の言い換えだ。設備投資や工事発注方法の見直しなどで達成するという。

 社長の広瀬直己(63)が「聖域はない」として経営改善を図る東電。実は、こうした姿勢は福島第1原発事故2011年3月11日に発生した東日本大震災の地震と津波で、東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の6基のうち1~5号機で全交流電源が喪失し、1~3号機で炉心溶融(メルトダウン)が起きた。1、3、4号機は水素爆発し、大量の放射性物質が放出された。前から顕著だった。

 「そろそろ原子力にもお金にキャップ(上限)が掛かってくる」

 事故前年の2010年、東電の社内会議で当時の常務取締役、武藤栄(65)が語ったとされる。福島事故に関する国会事故調査委員会東京電力福島第1原発事故の原因究明、事故防止策の提言などを目的に国会が設置した独立の調査機関。憲政史上初めて国会に第三者による独立した調査機関が設置された。2011年12月に発足、延べ1167人に900時間超のヒアリングを実施。12年7月に報告書を提出。「規制の虜」という言葉で事故原因の背景にある社会構造を浮かび上がらせ、事故を「人災」と結論づけた。事故防止に向けた提言は規制当局に対する国会の監視、独立した調査委員会の活用など7項目に上る。福島第1原発事故後、国会事故調のほか、政府、民間、東電と合わせて四つの事故調査委員会が発足、それぞれ事故の調査と検証を進め、報告書を公表した。が報告書に引用した。

 背景には、07年の中越沖地震2007年7月16日午前10時13分、新潟県上中越沖を震源に発生したマグニチュード(M)6・8の地震。最大震度6強を観測。東京電力柏崎刈羽原発では、地盤沈下により3号機の変圧器で火災が発生。緊急時対策室が使えなくなったほか、7号機主排気筒から微量の放射性物質が外部に放出されるトラブルも起きた。地震に伴う点検・復旧のため全7基が停止。09年に6、7号機、10年に1、5号機が運転再開したが、11年3月の東電福島第1原発事故の発生を受け、12年3月から全基が停止している。柏崎刈羽原発新潟県の柏崎市、刈羽村にある原子力発電所で、東京電力が運営する。1号機から7号機まで七つの原子炉がある。最も古い1号機は、1985年に営業運転を始めた。総出力は世界最大級の約821万キロワット。発電された電気は関東方面に送られる。2012年3月に6号機が停止してから、全ての原子炉の停止状態が続いている。東電が原発を再稼働させるには、原子力規制委員会の審査を通る必要がある。7号機は2020年に全ての審査に「合格」した。が被災し、全基停止したことがある。原発の設備利用率が低下し、経営が悪化していた。

 国会事故調は、津波などへの十分な安全対策を取らなかった東電の経営姿勢に対し「安全性に関する設備投資についてもコスト削減と無縁ではなかった」と断じている。

 国会事故調委員を務めた弁護士の野村修也(54)は解説する。

 「東電の失敗は事故のリスクを低く見積もり、安全対策で原発の設備利用率が下がることやコストの増加を経営上のリスクとみていたことだ」

 その上で柏崎刈羽の再稼働を目指す東電にくぎを刺す。

 「必要なコストを正しく見積もって安全確保や事故拡大防止策を取れるのか。経営効率を考えるのはその後だ」

 東電は16年4月1日、持ち株会社制に移行し、「東京電力ホールディングス(HD)」が柏崎刈羽原発を運営する。火力発電、送配電、小売りの各部門は分社化した。原発が動いていない今、東電HDは事実上まとまった稼ぎがない会社だといえる。...

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