米国への出発前におにぎりに舌鼓を打つ親子=羽田空港国際線ターミナル
米国への出発前におにぎりに舌鼓を打つ親子=羽田空港国際線ターミナル

 米どころとして知られる新潟。海外での和食の広がりや国内での米価高騰・品薄などでコメに注目が集まる中、新潟県の資源であるコメを武器に、付加価値を高める動きが相次ぐ。おにぎりなどはインバウンド(訪日客)で人気を集め、誘客や活性化のコンテンツとなる可能性を秘める。重点企画「NEXTコンテンツ潮流」の第1シリーズは、コメを強みに、新たな発想や工夫で価値を創造するクリエーティブな動きを追う。(9回続きの1)

◆こだわりの米作りに、美しい田園風景…「ストーリーを届ける」

 つやつや、ぴかぴか。「宝石のような透明感のある米粒」が印象的な塩むすび。窓の外には雪に覆われた真っ白な田園風景が広がる。「おいしい」。台湾から訪れた訪日客(39)は温かいおにぎりをほおばった。

 南魚沼市の米栽培、関農園が2022年にオープンした直売所「FARM FRONT(ファームフロント)」は、南魚沼産コシヒカリのおいしさを味わってほしいと、あえて塩だけのシンプルなおにぎりを提供している。土鍋で丁寧に炊いたご飯を手の中で転がすように俵型に握る独自の手法で、コメの粒が感じられる、ふわっとした食感を実現。素手で食べてほしいと、手指を洗うフィンガーボウルも用意し、田園風景も含めた「食体験」を提供している。

人気メニューの土鍋炊き塩むすびセット。カウンター席で雪原を眺めながら食べることができる=南魚沼市

 国内外から観光客らが訪れ、みそ汁や総菜が付いたセット(1680円)などを注文する。大阪から夫婦で訪れた女性(45)は「前回食べて感動し、もう一度食べたくて南魚沼まで来た」と笑顔を見せた。今回の来訪はスキーなどが目的ではなく、「ここが目的地」だという。

 雪室貯蔵庫も整備した関農園の関智晴社長(39)は「田んぼが観光資源。ビオトープなども作り、コシヒカリを育む豊かな田園の魅力を体感できる場所にしたい」と意気込む。

 ファームフロントは、大きな窓から豊かな自然を感じられる建物になっている。おにぎりを販売するようになったのも、風景の美しさを知ってほしいと考えたからだ。

大きな窓から雪化粧した田園風景が望めるカウンター席を紹介する関智晴社長=南魚沼市

 「コシヒカリが育った田園の風景を見ながら食べてもらえたら一番おいしく感じるのでは」。関社長は従業員との会話から、倉庫があった場所に直売所を開設することを決意。コメのおいしさが一番感じられるよう、具のない塩むすびを作り上げた。

 米作りにもこだわる。...

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