学生の頃に読んだ井伏鱒二の「多甚古村(たじんこむら)」という小説が好きだ。駐在所の若い巡査が、村のトラブルを解決しようと奔走する。酔っ払いのけんか、中学生の決闘騒ぎ、人を襲った野犬の捕獲…。大事件も名推理もないが、村人の困りごとや不安に一つ一つ、対応していく様子が平易につづられている。
時には酒を酌み交わし、時には不義を厳しくいさめる。「駐在はん」と親しまれる巡査の実直な人柄に引かれた。
警察の駐在所は、人口が比較的少ない郊外や山間部などに設置されている。交代で通う交番と異なり、警察官が住み込んで管内を受け持つことが特徴だ。家族と一緒に住むことも多い。
仕事は事件事故の対応のほか、犯罪の被害...
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