新潟県の新たな「誘致」の可能性を探る重点企画「シン誘致時代」。前橋市のまちづくりやビジョンに関わる「ほぼ日」代表の糸井重里氏(75)に地域活性化について聞いた。
-なぜ前橋の活性化に関わったのですか。
「ジンズHDの田中仁社長の存在が大きい。私は地元の前橋を一度出た人間で、複雑な距離感があったが、田中氏の熱心な取り組みに触れ、前橋に限らずどこの(地方の)まちも活気がなく、同じ状況があると感じた。まちの個性やにおいが欲しいと思った」
「ドイツのコンサルティング会社がつくった前橋のビジョンは英語だったため市民に伝わりにくいということで依頼を引き受け、『めぶく。』と表した。言ってみれば、何もない場所だということを同時に表現した。何もないところから種をまいて芽を出すということ。災害などで被害に遭ったわけではないが、復興の物語がつくれないかと思った」
-新潟を含め地方都市はどこも人口減少や中心市街地の衰退に悩んでいます。
「前橋での活動のヒントは、東日本大震災で被災した宮城県気仙沼市の支援をしたことにある。一つのまちが立ち上がる姿を見て、進んだものを輸入するのではなく、住民の声を聞くこと、地域の人が自ら取り組むことが大切だと学んだ」

地域活性化について語る糸井重里氏=東京都内
-2022年には商店街で前橋ブックフェスも行われました。
「商店街は子供のころ、にぎわいの場所だった。そこが全国から人が集まる場所にならないかと思った。家にたまった本をただ処分したりゴミにしたりせず、読む行為と結びつけた流通をつくれないかと考えた。本をやりとりする交流の場が商店街でできるのではないかと頭に浮かんだ」
「温泉地である大分・湯布院は何もないところからまちづくりが始まり、湯布院映画祭が生まれた。地元の良さや名産品にこだわり過ぎないことが大事だ。前橋ブックフェスでは田中氏の活動が下地となり、多くの人が支援してくれた。ビジネスとは市場の創造だ。本をやりとりする行為や場に魅力を感じ、多くの人が来てくれた。新しい市場が生まれた」
-まちづくりに関わる人も増えたと聞きます。
「白井屋ホテルができたことで多くの人に伝わるようになった。田中氏が前橋を訪れた人を案内し、何もない状態を見てもらい、商店街がどんどん良くなっていくようにしたいと思いを伝えている。ここが面白い、ここがいいと自慢するのではなく、まちづくりを手伝ってくれたらもっと面白くなるという流れだ」
「地域の外にも楽しみにしている人が大勢いると感じることで(地域での活動も)めげずに芽吹く。地元の人が徐々にプレーヤーになりかけている。今は芽吹いている最中。いずれ『めぶく。』ではなく、花開いた、実ったとなればいい」
◎糸井重里(いとい・しげさと)前橋市出身。法政大中退。コピーライターとして活躍。ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」の運営、「ほぼ日手帳」のほかコンテンツ開発、企画を手がける「ほぼ日」代表。
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