KOKAJIYAオーナーシェフの熊倉誠之助氏。建物は2022年に国の登録有形文化財になった=新潟市西蒲区
KOKAJIYAオーナーシェフの熊倉誠之助氏。建物は2022年に国の登録有形文化財になった=新潟市西蒲区

 人口減少や人手不足が課題となる中、個性や魅力を打ち出し、人や企業、資金を地域にいかに呼び込むかが経済活性化の鍵となる。多様な工場を地域資源として公開するイベントを通じて産業観光に力を入れる新潟県の燕三条地域や、「民間の力」を引き出してまちづくりを進める前橋市の取り組みなどから、ファンをつくり、巻き込む新たな「誘致」を探る。(3回続きの2)

 JR燕三条駅から車で約30分。新潟市西蒲区の岩室温泉に、東京から客が新幹線に乗ってやって来るレストランがある。築150年の古民家を利用した「灯(あか)りの食邸KOKAJIYA(こかじや)」だ。

 客の目当ては新潟県の食材や食文化を反映した独創的なイタリアン。予約制でメニューはコースのみ。今の時季は、西蒲区で狩猟が盛んなカモや、切り干し大根、干し柿といった雪国の保存食が皿を彩る。

「KOKAJIYA」の外観=新潟市西蒲区

 オープンは2013年。「小鍛冶屋(こかじや)」と呼ばれていたかつての村長宅を、首都圏から美食家が集う人気店にしたのが、運営会社リトモ(新潟市西蒲区)社長でオーナーシェフの熊倉誠之助氏(44)だ。「この店でしか体験できないことを提供したい」と語る。

 新潟市西区出身で、2010年にケータリング事業を始めた。地域活動の拠点として活用されていた小鍛冶屋で料理のイベントを開いたことなどがきっかけで、当時の管理者から飲食店の開業を打診された。

 「古い建物に魅力を感じた。地域の盛り上げにも貢献したい」。縁のなかった土地で店舗経営に乗り出した。

「KOKAJIYA」の奥にある物販コーナー=新潟市西蒲区

 新潟県産食材を使ったパスタなどが評判になり、すぐに繁盛店になったが、開店から3、4年は弥彦神社(弥彦村)や日帰り温泉のついでに訪れる新潟市内の客が多かった。

 「市外や県外からも集客するには、この店が目的地になる料理が必要」と一念発起。元々、料理は独学だったが、店を経営しながら県内の一流シェフの下で腕を磨いた。

 現在、県外客が約7割を占める。岩室温泉の一部の旅館と連携して宿泊客に食事を提供する「泊食分離」にも取り組んでおり、新たな客層の開拓につなげている。

「KOKAJIYA」の運営に寄り組む熊倉誠之助さん=新潟市西蒲区

 食を通じて地域に貢献したいという思いから、三条市の交流施設ステージえんがわ内で「三条スパイス研究所」を運営する。カレーが名物の食堂だが、二・七の市が立つ日は朝食(500円)を提供し、近所に住む高齢者らが訪れ、交流する場になっている。「1軒の店が地域に新しい風を吹き込んだ」と感じている。

 

 岩室温泉では、空き家になっていた置き屋などを利用して、焼き鳥店と宿泊施設も運営。今後はクラウドファンディングを活用して、温泉街にある貴重な建物を店舗などに再生する事業にも力を入れる方針だ。

 地域資源を生かして人を呼び込み、地域に刺激を与えながら、まちも店も発展するビジョンを描く。

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