人口減少などで地域経済が縮小しつつある中、国内外から投資を呼び込み、地域経済を活性化できるかが課題となっている。注目されているのがファンの力だ。経営者や商品・サービスに魅力を感じ、「推し活」のような形で応援する動きが増えている。重点企画「シン誘致時代」最終シリーズは、熱意と新たな手法でファンの心をつかみ、新潟県内に資金を磁石のように引き寄せる戦略や取り組みを追う。(6回続きの1)

 いくつもの樽(たる)が並び、豊かな香りが広がるウイスキー庫。樽にはオーナーがいることを指す「OW」との文字があり、本格的な出荷を待っている。

 新潟亀田蒸溜(じょうりゅう)所を運営する新潟小規模蒸溜所(新潟市江南区)は2021年、カスク(樽)オーナー制度を一部で導入。国内外のウイスキーファンやバーテンダーなど40人ほどがオーナーとなった。

亀田蒸溜所が製造するウイスキーのたる(カスク)を紹介する新潟小規模蒸溜所の堂田浩之社長。カスクオーナーのたるには「OW」の文字が書いてある=新潟市江南区

 180リットルで110万円などと高価だ。それでも印章製造販売「大谷」(新潟市江南区)などが設立した異色の蔵に対する応援に加え、世界的な国産ウイスキーの人気の高まりから、投資対象として将来的な価値上昇を狙う流れもあり、約3千万円が集まった。

 日本洋酒酒造組合(東京)が定める「ジャパニーズウイスキー」は、3年以上の貯蔵が必要で、製造から出荷まで時間がかかる。設立から間もない新潟亀田蒸溜所にとって資金確保は課題だった。

亀田蒸溜所が製造するウイスキー=新潟市江南区

 もともと「余韻があるウイスキーが好き」で異業種から参入した堂田浩之社長(49)にとって、カスクオーナーから集まった資金は「大きかった」。それ以上に重要だったのが「知名度向上とファンづくり」だという。

 カスクオーナーやイベントなどを通じてファンを広げ、台湾やシンガポールなどにも輸出している。堂田社長は「ファンの応援や期待が励み。試行錯誤しながら生み出したフルーティーさや余韻を多くの人に知ってほしい」と意気込む。

◆投資家はバーテンダーや酒販関係者ら、愛好家との接点に

 世界的なウイスキーブームもあり、品質の高い国産ウイスキーは人気で投資対象としても注目されている。一方、全国各地にウイスキー蒸留所が誕生。相次ぐ参入で酒蔵の経営環境は大きく変わろうとしている。

 日本洋酒酒造組合(東京)の組合員数は2024年9月末現在、105社に上る。新潟亀田蒸溜(じょうりゅう)所を運営する新潟小規模蒸溜所の堂田社長は「最初は(競争相手が少ない)ブルーオーシャンだったが、あっという間に(競争が激しい)レッドオーシャンになった」と語る。

ウイスキー樽の前で語る新潟小規模蒸溜所の堂田浩之社長=新潟市江南区

 新潟亀田蒸溜所はイベントでのPRに加え、世界的コンテストで賞を取るなどして知名度が向上。「推し」として成長を楽しみにするファンも増えた。カスク(樽)投資をした人たちの多くは、...

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