
映画やテレビドラマにCM、配信作品など映像の世界で近年、活躍する新潟県五泉市出身の俳優がいる。大山真絵子さん(37)。中学生で演技の道を志し、舞台から映像へと活動の場を広げてきた。制作側の苦労も経験しながらキャリアを積み、2024年に公開された長編映画では国際映画祭で女優賞も獲得した。20年以上、「演じること」に邁進(まいしん)してきた大山さんの半生を追った。
(撮影は写真家・増森健)
子ども劇団や養成所で経験積み…見いだされた才能
「雨に叫べば」メインキャストに抜てき
「やりたいことはこれだ」-。新潟市の新潟清心女子中学2年生だった大山さんは2001年、新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあの市民ミュージカル「ファデット」を観劇し、俳優になることを決意した。役者、衣装、舞台セットに音楽、照明。全てが詰まっている総合芸術に魅了された。
高校2年生まで、りゅーとぴあを拠点とする子ども劇団「APRICOT(アプリコット)」に所属。ファデットを演出した演出家の栗田芳宏さんのカンパニーでシェイクスピア劇にも挑戦、経験を積んだ。
07年に「りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ」の「ハムレット」(栗田さん演出)に初出演。翌08年には同シリーズの「冬物語」ヨーロッパツアーにも参加し、海外でもステージに立った。
活動の幅を広げる一歩を踏み出したのは10年。舞台とは異なる、映像作品での演技を学ぼうと東京の俳優養成所に入った。
当時は洋の東西を問わず数多くの映画を見た。俳優の中では、「モンスター」(米国、03年)で実在した元娼婦の連続殺人犯を演じたシャーリーズ・セロンに衝撃を受けた。「美しい人が醜い役になりきり、全てをさらけ出していた。役の内面も見せられる、彼女のような役者になれたら」と強く憧れた。

養成所を卒業し、映像や演劇作品への出演を続ける中、17年に参加したワークショップが一つの転機となった。映画監督の内田英治さんに演技力を認められ、作品に出演するようになる。他の監督やスタッフにも人脈が広がり、仕事が増えていった。
内田監督の配信作品「雨に叫べば」(21年)では、メインキャストの一人であるベテラン女優役をオーディションで獲得した。1988年の映画スタジオを舞台に、新人監督の花子が理想の映画作りに奮闘する-という物語。花子役の松本まりかさんをはじめ、人気と実力を兼ね備えた俳優が勢ぞろいした。

大山さんが演じたのはベテラン女優の楓。さまざまな要求を花子や制作側に突きつける役どころだ。
撮影までの準備期間が限られる中、俳優の桃井かおりさんが演じた過去の作品を見ながらイメージトレーニングに励んだ。「立ち姿や話す時の独特の間合いなどにインスパイアされた。演技に生かせました」。威厳のある「大女優」を堂々と演じきり、いまにつながる手応えを得た。
俳優を志してから20年余り。「どんな役であっても、その作品にとって美しい花でありたい」との思いを胸に演じている。
“踊る神”のように…佐渡でロケ制作にも奔走
「謝肉祭まで」でプロデューサーを兼任
俳優として舞台、映像作品への出演を重ねてきた大山さん。佐渡市で撮影された2021年公開の短編映画「謝肉祭まで」(イリエナナコ監督)では、主要な役を演じるとともにプロデューサーも務めた。資金集めに始まり制作全般に携わったことで、俳優だけでは味わえない経験を積んだ。
制作のきっかけは、大山さんと他の俳優2人が、親しくしていたイリエさんに「何かやろう」と相談したことだった。
400年に一度の謝肉祭を前に、「踊る神」「笑う神」「視(み)る神」が集まり話し合う。3人のうち2人は、まつりの舞台で死ななければならない。誰を選ぶか-そんな筋立ての物語だ。「イリエ監督が私たち3人に当て書きした作品」と説明する大山さんは、「踊る神」をおおらかに演じた。

プロデューサーとして佐渡をロケ地に提案した。自然豊かで神秘的な雰囲気もある。「内容的に、佐渡なら力のあるカットが撮れると思った」と振り返る。
資金確保や支援者集めにも奔走した。クラウドファンディングを実施するとともに、何度も佐渡に足を運び、地元の住民や企業、行政などのバックアップを得た。
共同プロデューサーの藤井宏二さんからは、「映画作りは最低4年」と言われていた。「資金集めから撮影、劇場公開、配信までの期間、全ての責任を覚悟しなさいと」。佐渡の佐和田海岸で最後のロケハンを終えると、イリエ監督と藤井さんから「ここまでお疲れさま」とねぎらわれ、「号泣した」と照れ笑いする。
ちなみに映画で使われている音楽は、大山さんの兄が所属するバンド「BRADIO(ブラディオ)」が担当。「初の兄妹共作になりました」

公開後の23年4月には、東京・下北沢で関連イベント「謝肉フェス」もイリエ監督と企画した。撮影時に佐渡で知り合った人や店に出展してもらったという。「ご縁は今もつながっています」と、笑顔で語る。
葛藤や距離感を繊細に…国際映画祭で女優賞受賞
ヒロインの友人役演じた「莉の対」
大山さんは2024年公開の長編映画でヒロインの友人を演じ、国際映画祭で女優賞を受賞した。着実にキャリアを積み上げている。
作品は「莉(れい)の対(つい)」。安定した生活に物足りなさを感じているヒロイン光莉(ひかり)が、北海道の森で暮らす耳の不自由な写真家・真斗(まさと)と出会い、物語が動き出す。
大山さんは光莉の友人の麻美を演じた。一見、何不自由なく生活するセレブ主婦だが、発達に障がいが疑われる娘や、意思疎通が図れない夫との関係に苦悩を抱えている。

作品は、演劇を中心に活動する俳優の田中稔彦さんと池田彰夫さんが、初めて制作に挑戦した異色作。真斗役の田中さんが監督と脚本を、真斗の友人役の池田さんが監督補と撮影を担当し、他のキャストは大山さんも含めオーディションで決定した。
大山さんは撮影前、夫役の俳優と一緒に...