第8弾 阿賀路
「10年後 さらに輝く地域へ」
-提言フォーラム詳報-
新潟日報 2022/06/01
新潟日報社が展開する「未来のチカラin阿賀路」の中核となる提言フォーラム「10年後 さらに輝く地域へ」が5月25日、阿賀野市水原保健センターで開かれた。阿賀野川でつながる五泉市、阿賀野市、阿賀町、福島県西会津町の住民代表7人が、地域づくりの視点から「10年後の地域に必要なモノ、コト、人」をテーマにつくり上げた提言を発表。3市町長を交えたパネルディスカッションでは、持続可能な将来への道筋を探った。フォーラムの内容を詳報する。

提言フォーラム参加者(敬称略)
(提言作成メンバー)
五泉市/青木 順子 「ラポルテ五泉」貸し館部門企画担当
五泉市/桐生 将文 農業法人「サン・ファーム泉」商品企画担当
阿賀野市/小田 正雄 「小田製陶所」社長
阿賀野市/坂井 文 「道の駅あがの」駅長
阿賀町/石川 英理香 ジェラート店「Refeli(れふぇり)」代表
阿賀町/堀口 一彦 「阿賀まちづくり株式会社」代表
福島県西会津町/矢部 佳宏 一般社団法人「BOOT」代表理事
(3市町長)
五泉市/田辺 正幸市長
阿賀野市/田中 清善市長
阿賀町/神田 一秋町長
コーディネーター
杉崎文治・新潟日報新発田総局長
【提言】交流増やし移住定住へ 創造力育む土壌 PR
阿賀路エリアが10年後にさらに輝いているために、今何が必要なのか。さまざまな立場で地域づくりに携わる4市町の代表7人が、提言をまとめた。阿賀野川を軸に広域連携を進め、ともに地元の魅力を発信して交流人口を増やし、移住や定住につなげていく理想の地域の実現を掲げた。
発表では代表して3人が登壇。阿賀町でジェラートショップを経営する石川英理香さん、五泉市の農業法人でアロニアの生産、6次産業化に取り組む桐生将文さん、阿賀野市で今夏オープンする「道の駅あがの」駅長の坂井文さんが、五つの提言を示した。
<提言>
1.既存の産業を活性化させよう
2.身近な宝物を活用して地域の魅力をもっと発信しよう
3.若者が集う拠点を作ろう
4.観光を軸にした広域連携を進めよう
5.市町村や県をまたぐ情報共有を

ジェラート店「Refeli」代表

農業法人「サン・ファーム泉」商品企画担当

「道の駅あがの」駅長
まずエリアの現状と課題について、少子高齢化と若者の転出による人口減少が進み、基幹産業の農業を含む地域経済の低迷が続いていることが指摘された。
理想実現への一つ目の提言は「既存の産業を活性化させよう」。阿賀町で地元の文化や歴史、自然を大事にしながら、イベントを通じて町のファンをつくる取り組みを紹介。中長期的な視点で移住定住につなげることを訴えた。農業は、コストなどを踏まえた適正価格での販売で「稼げる農業」にすること、都会の消費者と産地をつないだ販路拡大の必要性も強調した。
二つ目の提言「身近な宝物を活用して地域の魅力をもっと発信しよう」では、廃校の給食室を農産物の加工に活用するアイデアを紹介。阿賀野市の商工業者や高校生がJR大宮駅で開いた「産直市」の成功を例に、地元の魅力をPRする機会の増加を訴えた。
三つ目の「若者が集う拠点を作ろう」では、大学など高等教育機関の設置を提言。進学や就職で若者が地元を離れる現状から、「豊かな自然に恵まれた田舎にこそ、創造性や斬新な発想を生む土壌がある」と強調した。
四つ目は「観光を軸にした広域連携を進めよう」。阿賀野市の「道の駅あがの」のオープンは「外から人を呼び込む絶好のチャンス」として、歴史的にも地理的にも縁の深い阿賀野川や会津街道でつながる広域連携を進めることを提案。世界遺産登録を見据えた佐渡との連携の意義も強調した。
五つ目となる「市町村や県をまたぐ情報共有を」では、行政はサポートのみで住民が主体的にまちづくりに取り組む西会津町など、地域活性化の参考事例を積極的に共有することを提案。最後に「まずは住民一人一人が楽しみながら、できることから行動しよう」と力強く呼びかけた。
【討論】10年後の理想
青木 順子さん 「社会全体で子ども育む」
堀口 一彦さん 「地域の枠超え観光振興」
フォーラムでは、提言を作成したメンバーと首長によるパネルディスカッションが行われた。

「ラポルテ五泉」貸し館部門企画担当

「阿賀まちづくり株式会社」代表
-10年後の理想に向けて取り組みたいことや参考事例は。
青木さん 五泉市に友達がいた縁で新潟市から引っ越し、地域おこし協力隊員になって、現在はラポルテ五泉に勤めている。(10年後の理想に向けては)どれだけ地域を巻き込んでラポルテ五泉を盛り上げられるかが大事だと思っている。関わってくれる人々に楽しい人生を送ってもらいたいし、世代を超えて住民がつながり、みんなで子どもを育む社会になってほしい。人々の垣根を越えた学びの場を提供し、地域を救う人材が生まれてほしい。
小田さん 田んぼを乾かすために使う素焼きの管を作る会社を阿賀野市で営んでいる。地元が大好きで、どうしたら人がもっと来てくれるかと考えたら、ここには高速道路もインターチェンジも産業団地もある。それなら(米国系会員制量販店)コストコだ。先日、山形県のコストコに行ったが、とてもにぎわっていて、地場の物も買おうと近くの商店に寄るんですよ。阿賀野にできれば福島県の会津地方からも人が来てすごい効果があると思う。
堀口さん 東京生まれで横浜、千葉育ち。阿賀町で地域おこし協力隊員になった後、まちづくり会社を立ち上げた。これまで地域の宝を掘り起こし、イベントにして交流人口を増やす活動をしてきて、町を発信する「あがまちファンクラブ」の運営なども行っている。市町村単体で観光振興をするには無理があると感じている。(地域資源を)一つ一つ磨くことは必要だが、うまくつないでお客さんを呼び込む流れをつくらなければいけない。
矢部さん 西会津の山奥に住んでいて、町の施設の指定管理や、自宅を活用した古民家ホテルの運営をしている。自分の地域は人口600人の中で50歳以下は30人もいない。地域を維持するには、外の人に助けてもらうしかない。大事なのは、どういう人が興味を持ってくれるかなど、データをしっかり把握すること。また、楽しい地域でないと人は来ないので『あいつは遊んでいるのでは』と言われるくらい楽しく仕事をしないと駄目だと思う。
田辺市長 慣れ親しんだ普通の風景が、外から見ると魅力的ということはよくある。それを言葉、形にしないといけない。その気付きや心をくすぐる積み重ねを、この10年で形にしていけたらいい。
田中市長 コストコは昨年か一昨年だったか、断られた。担当者が来て、われわれが紹介する場所を見てもらったが、最終的にご縁がなかった。われわれは民間の力を借りて人口を増やしたいが、(集客力で進出を決める)民間の見方は逆だ。
神田町長 阿賀町は自然豊か。堀口さんのように、私どもと違う観点でいろんなイベントを仕掛け、注目してもらっている。すばらしいものが地域に眠っていることに、私たちももっと気付かなければいけない。
広域連携
小田 正雄さん 「佐渡結ぶ観光ルートを」
矢部 佳宏さん 「人流増へ新潟をハブに」

「小田製陶所」社長

一般社団法人「BOOT」代表理事
-持続可能な地域づくりにつながる広域連携のアイデアをうかがいたい。
青木さん 阿賀路の各地域は、それぞれ違った良さを持っている。互いに情報交換をする場があれば、例えばイベントが少ない時期に観光面でカバーし合うこともでき、相乗効果が期待できる。阿賀路を巡ることの意義をアピールできれば、地域の可能性がより広がっていくはずだ。
小田さん 世界遺産登録に向け、国内外から注目が集まっている佐渡ともぜひ連携を図りたい。佐渡は鬼太鼓が有名だが、阿賀野には鬼瓦、阿賀にはオニグルミといった「鬼」つながりの名物がある。それぞれの地域が持つ魅力を整理し、観光ルートを整備してみるのもいいかもしれない。
堀口さん 歴史を振り返ると、阿賀は越後、会津の両方の側面を持っている。地形に着目すると、阿賀野川の流域で共通する特徴も見受けられる。阿賀が阿賀路の「かすがい」としての役割を担い、地域同士を結び付けながら、連携を進めていくのはどうだろうか。ジオツアーも面白そうだ。
矢部さん 新潟空港があり、関西からも好アクセスな新潟をハブとし、国内外から人を呼び込みたい。阿賀路は日本の原風景が残り、寺社や温泉、SLも楽しめる地域。アクセス向上を図り海外への発信力を磨けば、より多くの人が訪れてくれるだろう。
田辺市長 阿賀路の地域間において、さまざまな面で補完し合えることが望ましい。お金の流れという観点では、地域外への流出をできるだけ防ぎつつ、地域経済を循環させることも重要だ。阿賀路はもちろん、新潟や佐渡も含めた広域において、模索しながら連携を深めていきたい。
田中市長 広域連携を推進していく上では、生活圏や医療圏の違いを見直す必要も出てくるかもしれない。ただ、近年は道路も良くなり、人やモノの流れをつなげやすい環境が整いつつある。互いの共通項を生かしたり、逆にないものを補い合ったりと、いろいろな手法が試せるはずだ。
神田町長 多くの観光客が会津を訪れている中、人の流れを県境で止めずに、阿賀路へと引き込むための工夫が必要だ。各地域の道の駅を回るスタンプラリーも手法の一つだろう。新潟や佐渡といった、阿賀野川が流れていく先にある地域も視野に入れ、広く連携を図っていきたい。


田辺 正幸・五泉市長
マーケティングが必要
立派な提言に心から感謝している。私は昨年10月までプリンスホテルで30年間勤務した。その知見やネットワークを生かしたい。地域の魅力を発信し、五泉ファンを増やし、定住人口の増加につなげることが大事。そのためには(顧客ニーズの把握など)マーケティングが必要だ。ラポルテ五泉が昨年10月にオープンした。ゲートウエー、ランドマークとして、ここから市内を回遊でき、いろんな発信ができる場所にしたい。

田中 清善・阿賀野市長
里山通じ交流拡大図る
非常に新鮮だった。われわれ3市町には里山という共通点があり、連携して里山の交流拡大を進めたい。提言にはまちづくり会社の取り組みがあった。里山をテーマに全国からふるさと納税を募り、それを活用して地域で会社を興し、活躍してもらい、人口が増える。そんないい循環をつくっていければ。今年は道の駅あがのがオープンする。これを起爆剤に活性化させたい。阿賀野川ラインのつながりを有効に活用したい。

神田 一秋・阿賀町長
少子化対策挑戦続ける
提言は心に響くものがあった。阿賀町では子どもの数が極めて少なくなっている。町の予算で婚活イベントを実施したり、住宅新築や通勤に補助金を出したり。メニューは充実したが、なかなか結果に結びつかない。効果を検証しながら挑戦を続けたい。町民だけで課題を解決するのはもはや難しく、町を好きな人、興味がある人の力を借りる必要がある。町の良さについてもより効果的に発信しなければならない。

薄 友喜・西会津町長あいさつ
まちづくり県境越えて
隣県である新潟の方々には、大山祇(おおやまずみ)神社や道の駅への観光など、日頃からさまざまな形で西会津に接してもらい、大変ありがたい。
かつて都が京都にあった頃は、北前船や水運、越後街道を通じ、人やモノが盛んに交流していた。都が東京に移ると、いつしか人々の視線は太平洋側を向くようになっていった。これからの時代は、日本海側に目を向けたまちづくりが必要だと考えている。
新潟空港は町から1時間ほどの距離にあり、同じ福島県内にある福島空港よりもアクセスがよい。磐越道のほか、国道49号や459号も通っている。持続可能なまちづくりを目指していく上で役立つ資源は、すでにたくさんそろっている。
今回の提言フォーラムを契機として、魅力あるまちづくりを目指し、今後も県境を越えて連携を図っていきたい。
主催者あいさつ
佐藤 明・新潟日報社社長
この度の提言フォーラムに向け、地元代表の方々は長期間にわたり議論を重ねてきた。本日は五泉、阿賀野両市長と阿賀町長が参加し、福島県から西会津町長も会場に来てくれた。
「未来のチカラ」は、住民の皆さまと共に地域の将来を考え、発信するため、2019年の上越を皮切りに始まった取り組みだ。阿賀野川を舞台とし、かねて交流を重ねてきた阿賀路エリアは、県内9カ所のうち8番目の開催。隣県とも連携した試みは、今回が初めてとなる。
これまでの開催地では、住民から首長への提言がきっかけとなり、その後の取り組みにつながった地域も多くあった。今回も実りあるフォーラムになることを確信している。
未来のチカラin阿賀路は5月で終了するが、今後も引き続き、皆さまとともに地域の将来について考えてまいりたい。